ゲームと勝負カン 勝負師に大事な「ひらめき」

正木利和のスポーツ茶論

 石川遼や宮里藍の男女のゴルフ、錦織圭のテニスなどに見られるように、スポーツの世界では、たったひとりの天才の出現によって、ブームが起こる。

 それとよく似た現象がいま、将棋の世界で起こっている。もちろん、中学生でプロになり、いきなり棋界の連勝記録を塗り替えてしまった藤井聡太四段(14)のことである。

 かつて、藍ちゃんみたいになりたい、と彼女に憧れてクラブを握った女の子たちが、いまプロで活躍しているように、天才は次世代へ大きな影響力をもつ。将棋でいえば、史上2人目の中学生棋士、谷川浩司九段が棋界の最上位クラスA級に上がった昭和57年、プロの養成機関である奨励会に羽生善治三冠や森内俊之九段が入会し、後に棋界を支える存在になったように。

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 そうした点で似ているからというわけでもあるまいが、頭脳ゲーム、将棋が好きなスポーツ選手は多い。

 とりわけプロ野球に目立つ。元ヤクルト監督の古田敦也さんや元阪神監督の岡田彰布さん。阪神ではほかに今岡真訪(まこと)コーチや独立リーグの兵庫に移った井川慶投手らがそうだ。意外なところでは、史上最強の助っ人といわれたランディ・バース内野手。先輩記者によると、同僚の川藤幸三さん(現野球解説者)に学び、練習の合間によくロッカールームで指していたそう。

 ちなみに、彼の場合、配球の読みなどのトレーニングというより、日本になれるための、いわばコミュニケーションツールとして楽しんでいたらしい。

 プロゴルフでは「ドン」と呼ばれた故杉原輝雄さんがそうだった。テレビ対局にもよく出た杉原さんだが実際、雨の日に試合が中断したり、スタートの待ち時間などができると、後輩の中村通選手らを「一丁、やろか」とつかまえ、クラブハウスのロビーで楽しそうに指している姿を見かけることが多かった。

 飛距離のある大きなゴルファーを相手に身長162センチの小男が戦うには、コースのレイアウトやコンディションを読み、自分の能力を考えながら、正確なショットを重ねて攻略するしかない。将棋はそのトレーニングになりそうだが…。

 「そんなんより、勝負のカンどころやね。ここは行くか、守るかいうね」

 機嫌が良さそうなとき、杉原さんにゴルフではなく将棋のことを聞くと、こんな答えがかえってきた。勝負師には「ひらめき」も大事だというわけである。

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 そんなことを思い出したのも先日、繁華街の麻雀(マージャン)荘で3人で麻雀を打つ、テレビでおなじみの強豪棋士たちを見かけたせいだろう。

 俳優の松山ケンイチが主演して話題になった映画「聖(さとし)の青春」のモデル、故村山聖九段の優秀な後輩たちはみな、短い持ち時間のなかで戦う早指し棋戦にめっぽう強い。いわゆる、「早見え」タイプばかりである。なぜだろう、とずっと不思議に思ってきたが、それで納得がいった。

 麻雀にはマナーがある。そのひとつが素早い判断で手牌を切ること。彼らはそのゲームを通常より1人少ない3人で戦っている。瞬時の判断力を磨くにはもってこいの訓練ではないか。

 麻雀というゲームには勝負につきものの「運」という目に見えないものもからんでくる。調べたわけではないが、判断力だけでなく「運」を手なずけるトレーニングとして卓を囲んでいるアスリートも存外、多そうな気がする。