EMP攻撃で「文明」は崩壊…日本は何千万人も餓死に追い込まれる 榊原智

一筆多論

 現代に生きる私たちは、意外な形の脅威にも備えなければならない。

 その一つかもしれないのが、核兵器を高さ30キロメートルから数百キロメートルの高高度(高層大気圏)で爆発させる電磁パルス(EMP)攻撃だ。

 原爆や水爆について、日本人は広島、長崎の惨禍を連想する。広島では上空600メートル、長崎は上空500メートル付近で原爆が爆発した。

 一方、EMP攻撃は核爆発の現場があまりに高高度であるため、核兵器による熱線、爆風、放射線で直接死傷する人は出ない。

 にもかかわらず、攻撃された国の文明社会は崩壊し、たとえば日本なら、何千万人もが餓死に追い込まれるかもしれない。

 核爆発で強力なEMPが生じる。高高度なら、その下の極めて広い領域にわたって、対策を施していない電子機器・電子回路に過剰な電流が流れる。電子機器・回路は破壊されたり、誤作動したりする。核保有国はこの現象を知っている。

 広島市国民保護協議会専門部会の報告書(平成19年)は、米国中央部のオマハ上空500キロメートルで核爆発があれば「(米)国中の送信機器、送電システム、コンピューター、レーダーなどが、落雷の100万倍ともいわれる急激な電圧上昇に直撃されて機能不全に陥」ると指摘する。

 また、防衛省防衛研究所の研究〈一政祐行主任研究官「ブラックアウト事態に至る電磁パルス(EMP)脅威の諸相とその展望」/『防衛研究所紀要』28年2月号〉は、EMP攻撃が「広域にあらゆる電力・通信インフラが不可逆的にダウンしていく大停電現象」の「ブラックアウト事態」を招くと予想する。

 現代の輸送車両、通信機器で電子機器・回路なしで動くものはまずない。輸送網と通信網が止まり、電力も供給されなければ明治初期や江戸時代のインフラ状況に戻ることになる。多くの国民は原因さえ知る術(すべ)がない。社会システムは崩壊し、飢えが襲うだろう。

 国会でEMP攻撃に警鐘を鳴らした国会議員は過去1人しかいない。衆院議員当時の小池百合子東京都知事である。

 小池氏は「北朝鮮の核開発が注目されるが、EMP爆弾というものがある。電磁パルスが日本を襲ったときにどうなるか。金融機関とか交通、あらゆる社会的なシステムが停止する。どれくらいの被害を想定し、いつまでに政府としてどこが中心になって何をやるのか」(22年1月22日、衆院予算委)と、当時の民主党政権にただした。

 だが民主党政権も自公連立政権も、脅威かどうかの検証をしていないようだ。

 核爆発による直接的な死傷者以上の「メガデス」を招きかねないのなら、EMP攻撃は核抑止の対象だと日米両政府は明確にすべきだ。弾道ミサイルや航空機が高高度に達する前に迎撃する能力も欠かせない。

 ただ、政府には防衛省・自衛隊にとどまらない取り組みが求められる。電子機器・回路にはEMP対策として技術的に防護を施せるという。政府は被害想定を見積もり、国民を守るために必要との判断に至れば、経済対策にもなると割り切って防護策に乗り出すべきではないか。(論説委員)