東京五輪はアスリートだけのものじゃない 国民の生涯スポーツの機会に 津田俊樹

スポーツ茶論
東京五輪(左)とパラリンピックのエンブレム「組市松紋」(「Tokyo 2020」提供)

 ママ友ならぬジム友という言葉を耳にした。フィットネスクラブは心身を鍛える場所だけでなく、サロンになりつつある。午前10時オープンなら、15分前から行列ができるという。

 特に、女性の存在感が際立つ。正直、まゆをひそめたくなるときもあるが、仲間と一緒に気分転換、ストレス発散しようとしているのだから、じっと、じっと我慢である。

 お年寄りの元気の良さに圧倒される。知り合いの82歳の靴職人は週3、4回、プールに泳ぎにきて、生涯現役を貫く。「最近、太り気味だからな。仕事も暇だし、ジッとしていてもなんだから」。顔のツヤがいい。動きも軽い。とにかく声が大きい。「もう一度、東京オリンピックを見てみたい。あと3年、もう少し頑張るよ」

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 年明け早々、高齢問題の研究者らでつくる日本老年学会などが、65歳以上とされる「高齢者」の定義を75歳以上に見直し、65~74歳は「准高齢者」として社会の支え手ととらえ直すよう求める提言を発表した。医療の進歩や生活環境の改善で、10年前に比べ身体の働きや知的能力が5~10歳ほど若返っているという。

 内閣府の「2014年版高齢社会白書」によると、60歳以上の約6割がグループ活動に参加しており、なかでも、「健康・スポーツ」は10年前より8・4ポイント増えている。厚生労働省の「14年版厚生労働白書」では、65歳以上の58%が身体を動かしていると答え、健康のためなら、14・2%の人が月に1万円以上の出費も、いとわないというのだから、本気である。

 経済産業省の産業活動分析(14年回顧)のなかに、フィットネスクラブ会員の年齢別構成比がグラフ化されているが、60歳以上は08年に世代別トップに立つと、年ごとに比率を伸ばし、14年には30・3%までに達した。少子化のあおりで全人口の若年層が減少しているとはいえ、高齢者の健康志向はデータ的にも裏付けられる。

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 長年、介護予防事業に携わってきたハイライフサポートの泉澤輝代表取締役は「みなさん熱心で、ずっと継続されています。ジム通いが生活の一部になっていますので、若い人のように三日坊主の人はほとんどいません」と意識の高さを強調する。

 わが国は世界屈指の長寿国に加え、世界保健機関(WHO)が提唱する「健康寿命(自立して生活できる期間)」でも男女平均74・9歳(15年時点)、シンガポール、韓国、スイスなどを抑えてナンバーワンである。

 20年東京五輪・パラリンピックに向けて、トップアスリートの強化を図るのは当然だが、開催を国民の体力向上、生涯スポーツ推進の機会にとらえると、夢舞台が身近になる。

 施設のレガシーが声高に叫ばれるなか、ハードだけでなくソフト面にも目を向けると、もう一つの風景が見えてくる。日常的にスポーツで汗を流し、胸に刻まれた思いが受け継がれていくのも遺産になる。そこには、老いも若きもない。

 スポーツ・ビジネスに詳しい近畿大学産業理工学部の黒田次郎准教授は「メダル争いで、日本選手を応援するだけでなく、(五輪が)健康維持のため、自ら体を動かすきっかけになってほしい。医療費削減にもつながりますしね」と提言する。

 お年寄りに負けては、いられない。