カツ丼付きの「取調室」でクライアント聴取 「本気でふざけて」悩み聞き出し解決

「取調室」でのクライアントへの聴取を再現する田村慎太郎社長=兵庫県姫路市(古野英明撮影)
「取調室」でのクライアントへの聴取を再現する田村慎太郎社長=兵庫県姫路市(古野英明撮影)

取調室風の相談室、映画風の企業ポスター、博士風のカツラと白衣の格好での会議…。兵庫県姫路市の広告代理店が、おもしろアイデアで中小企業の活性化に取り組んでいる。コンセプトは「本気でふざけたことをやってもうける」。最初のうちはためらっていた経営者らも、若手社員らが生き生きと働くようになるさまを見て、乗り気になっているという。

まるで刑事ドラマ

姫路市にある広告代理店「楽通」の本社。そのオフィスの一角に「取調室」と記されたブースがある。縦横約2メートルのスペースに机とパイプいすがあり、机の上には刑事ドラマでもおなじみの電気スタンドが。

「私が刑事役になって社長さんの〝取り調べ〟をするんです。あらいざらいしゃべって楽になったらどうだ、と」。楽通の田村慎太郎社長(51)は真面目顔で話す。

これはれっきとした営業活動で、経営者の悩み事ややりたい事などを聞く。普通に話しても経営者らはなかなか本音を語ろうとしないが、「変わったシチュエーションのおかげでノリノリになり、喜んで本音を話してくれるようになりました」。聞き取った内容をもとに提案などを「調書」にまとめる。

2年前にこのブースを導入したところ、「取り調べを受けたい」という経営者が続出。「刑事ドラマ定番のアレは出ないのか」との要望に応え、かつ丼も用意した。これまでに約100人が「取り調べ」を受け、「7割ほどが何らかの成果を出している」という。

今年6月には、「取調室」を商品化。1セット50万円で売り出したところ、2セットが売れた。「社長が社員を取り調べるとパワハラになりかねない」ということで、「部下が上司を取り調べるという形でご利用ください」という「取扱説明書」もつけた。

「社員が社長に対して遠慮なくモノを言えるような風通しのいい会社になるでしょう。取調室は私の商売にとっても企業にとっても最強のツールだと自負しています」

社員が主役

取調室のほかにも、田村社長はさまざまな「遊び心」のある提案を企業側に行ってきた。

「本気でふざける」ことが中小企業の活性化につながると力説する田村慎太郎社長=兵庫県姫路市(古野英明撮影)
「本気でふざける」ことが中小企業の活性化につながると力説する田村慎太郎社長=兵庫県姫路市(古野英明撮影)

中でも反響があったのが平成29年から始めた「企業映画化ポスター」。もともと映画好きだった田村社長が、姫路市内の運送会社の社長から「運転手がなかなか集まらない」と悩みを聞いたのがきっかけで、社員を「主役」とする映画風の求人ポスターを作成することを思いついた。

実際に働く社員数人に俳優のようなポーズをとってもらい、「俺たちに運べないものはない」という派手なキャッチコピーをつけたポスターの効果で、同社は1カ月で3人の新規社員採用に成功。評判は口コミで広がり、これまで250社、300種のポスターを制作した。

3年前からは映画風PR動画も。石川県の土木会社の依頼でつくった動画は、社員数人が並んで歩くシーンをスローモーションで流すという刑事ドラマのオープニング風で、動画投稿サイト「ユーチューブ」で再生約20万回を記録した。

ポスターも動画も、求人に威力を発揮しただけでなく「社員のモチベーションが上がり、社員同士の結束力も強まったと喜ばれた」という。

また、北九州市の営業所で月1回、クライアント約10人を集めて行う勉強会では、全員が博士風のカツラにメガネ、白衣といういでたちの「博士」に扮装(ふんそう)し、互いに面白いアイデアを出し合っている。

「スーツ姿で何かおもしろいこと言え、といってもなかなかできませんが、博士の格好をすると、逆に真面目なことを言うのが恥ずかしくなるんです」と田村社長。この勉強会は姫路でも定例化したいという。

そこまでしないと…

平成28年に総務省と経済産業省が行った経済センサス活動調査によると、中小企業は全企業の99・7%を占め、その経営状況悪化が日本経済を直撃する。

田村社長はクライアントの経営者らに対し「遊び心」の重要性を訴えてきたが、多くが真面目人間で、田村社長の提案に「そこまでしないといけないのか」とためらうという。

そんな経営者らを「そこまでしないと知名度がない会社に若い人は来てくれない」「今いる従業員も遊び心のある社長のもとなら、生き生きと仕事をし、いいアイデアも出てくる」と説得。取調室のような「本気でふざけること」を楽しむ経営者が徐々に増えてきたと実感している。

「中小企業から日本を元気にしたい」。田村社長はクライアントのため、日々おもしろいアイデアを練り続ける。(古野英明)

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