路面電車として先月26日、75年ぶりに新規開業した宇都宮市のLRT(次世代型路面電車)が、まずは順調に滑り出した。
開業したのはJR宇都宮駅と同市の隣町・芳賀町にある工業団地を結ぶ14・6キロだ。
開業人気も手伝い、利用客は平日約1万2千人、週末約1万5千人と当初予測を上回った。ただ、道路の中央を電車が走るとあって車との接触事故が既に3回起きた。
双方の運転手への一層の注意喚起が必要だが、沿線ではマンションや住宅地の開発が進み、新しい小学校も開校した。
開業までの道のりは平(へい)坦(たん)ではなかった。慢性的な交通渋滞解消と旧市街地活性化を目的に、路面電車の新設構想が持ち上がったのは約30年前だった。しかし、多額の費用がかかる上、「自動車の邪魔になる」など反対論も強く、市を二分する論争に発展した。近年の市長選ではLRTが最大の争点になったが市民は推進派を選択した。
佐藤栄一市長が「誰もが自分の力で移動できる持続可能な街をつくるための長い取り組みになる」と語るように、LRT開業は、出発点に過ぎない。LRTを軸に持続可能でコンパクトな街づくりを推進する宇都宮市の取り組みの成否は、少子高齢化が進む日本の地方都市にとって、大きな試金石となろう。
一方、大阪府富田林市などを走る金剛バスの運営会社が、年内に路線バスを廃止すると発表した。運営会社は、利用者減少と運転手確保が困難になったことを理由に挙げたが、突然の廃止表明は、地元だけでなく、全国に波紋を広げている。
ほとんどの路線バス事業者は、少子高齢化による人口減少とマイカーの普及、さらに運転手不足によって赤字を余儀なくされ、存亡の危機に立つ。金剛バスの廃止をきっかけに「廃止ドミノ」が起きかねないのだ。今こそ地方自治体がリーダーシップをとって事業者と住民が知恵を絞り、協力して地域の足を守らねばならない。
同時に国の責任も重い。これまでのような事業者や自治体任せの漫然とした交通政策を続けていけば早晩、地方の足は消えてなくなってしまう。斉藤鉄夫国土交通相は、宇都宮の試みを参考に、地方交通のあり方を抜本的に見直し、国民の「移動権」を守ってもらいたい。