「ところで、今期のタイガース効果はいかほどでしたか?」
それは阪神電気鉄道の決算発表で聞く、決まり文句だった。
僚紙・大阪新聞(平成14年に休刊)の経済部で、鉄道担当だった30年ほど前のことである。
ただし、球団を持つことによるイメージアップや広告戦略といった数字で把握しにくい分野の話ではない。売上高や利益を実際にどのくらい押し上(下)げたかその額を直接聞いた。
傘下の人気球団・阪神タイガースの成績は鉄道収入などに直結し、親会社のもうけを左右する要素の一つだったからだ。長引く不況で本業の鉄道事業が落ち込んだときも、野球が好調だったおかげで「タイガースに救われた」ともらす役員もいたほどである。
阪神電鉄は大阪~神戸間を結ぶインターアーバン(都市間電気鉄道)だ。現在は阪急阪神ホールディングスの子会社である。
旅客営業キロは約49キロと、全国大手民鉄16社の中では2番目に短い(日本民営鉄道協会のデータから)。ちなみに最も長いのは近畿日本鉄道の約501キロで、東武鉄道、名古屋鉄道と続く。最も短いのは相模鉄道の38キロだ。
そんな関西のコンパクト鉄道でありながら、全国的には抜群の知名度を誇る。ひとえにプロ野球球団と、そのホームグラウンドである阪神甲子園球場が有名だからだ。
つまり、成績が良ければ良いなりに、また悪ければ悪いなりに話題になるから、記者としては聞かねばならない質問の一つだった。そして、成績と収入の相関関係もこれまたはっきりしていた。
たとえば平成4年は、前年の最下位から急浮上して2位でシーズンを終えた。すると、入場者数は前年比で約6割も増加、甲子園を中心とする近隣駅での運賃収入も倍増した。
20年前の星野仙一監督時代のリーグ優勝は18年ぶりということもあって大フィーバー。V効果で阪神電鉄の連結決算は売上高も利益も過去最高だった。
もっとも「成績が悪くても客は来る」という虎ファン神話も根強い。実際、平成6年当時の球団代表のこんな証言がある。
「入場者はやはり上下します。ただ、他の球団に比べて戦績が悪くても、減り方が少ないのです。負けを楽しんでおられるお客の多いのは事実です」(『よりぬき大阪学』大谷晃一著)。さすが虎ファンだ。
さて、タイガースが18年ぶりのリーグ優勝を決めた。おなじみになった関西大、宮本勝浩名誉教授の試算によると、関西地域での経済効果は約872億円に上るという。
また過去の優勝時の試算も発表され、星野時代の平成15年は約1481億円、岡田彰布監督で優勝した17年は約643億円だった。前々回と今回が比較的高いのは、18年ぶりというレア感だろう。いずれにせよ景気は「気」からというほどに、その活躍は関西の景気を押し上げる力がある。
もう一つ、岡田監督が「アレ」と呼んだことでファンが期待感や焦燥感を募らせ、盛り上げに一役買ったのではないだろうか。
言葉に宿る力を言霊というが、指示代名詞(あれ)にこんな効力があるとは…。何かマーケティングに生かせるかもしれない。(論説委員)