本州最南端に近い和歌山県太地町で今月、小型クジラやイルカの追い込み漁が解禁された。漁師町を揺さぶるのが海外の反捕鯨団体。コロナ禍の制限が解けて入国者が増える中、再び活動の過激化も懸念される。
▶数年前、この町を訪れると複数の警察官が海上を監視していた。紺碧(こんぺき)の海が陽光に輝く光景とは裏腹に、追い込み漁の小さい湾だけが緊迫した雰囲気だった。騒動のきっかけは平成22年、漁が残酷だと批判した米映画「ザ・コーヴ」が米アカデミー賞を受賞したことだ。以来、反捕鯨の象徴となっている。
▶江戸時代以来の伝統を持つ太地のクジラ漁。舟にはかつて鳳凰(ほうおう)などが描かれていた。捕獲されたクジラが最期に見るであろう鯨舟。浄土を連想させる絵によって成仏を願ったとの話を聞いた。命の重さを尊ぶゆえんだろう。漁期は来春まで。静かな漁を願ってやまない。