上場企業の株式を大量に保有し、経営陣刷新や株主還元などを要求する「物言う株主」。昨年は日本企業への株主提案が前年から倍増し、今年はさらに増加している。とくに創業家が経営に強い影響力を持つ企業がターゲットになることが多く、コーポレートガバナンス(企業統治)の問題が指摘され、創業家出身の経営者が退任に追い込まれるケースも出ている。
エレベーター大手フジテックが2月に開催した臨時株主総会で、香港の投資ファンド「オアシス・マネジメント」が推薦した社外取締役4人が選任された。3月には創業家出身の会長が解任され、オアシスはフジテックの経営に強い影響力を持つことになった。
オアシスは昨年5月、「創業家によるガバナンス問題」を旗印に、ネット上に大量の資料を公開して株主に支持を訴えた。創業家と会社による不適切取引疑惑などの指摘に違法性を立証する証拠はなかったが、ネガティブキャンペーンは成功し、臨時株主総会では多くの投資家の支持を集めた。
今年6月の定時株主総会で、今度は創業家の元会長側が株主としてフジテックの社外取締役入れ替えを提案し、オアシスの影響力排除を試みたが否決され、経営権を取り戻すことはできなかった。
ただ、物言う株主の主張が支持を集めないこともある。8月10日に開かれたドラッグストア大手ツルハホールディングス(HD)の定時株主総会では、オアシスが「ツルハのガバナンスに問題がある」として社外取締役の選任や取締役会長の廃止などを求める株主提案をしたが、いずれも否決された。
オアシスのセス・フィッシャー最高投資責任者は7月のオンライン会見で「経営陣はガバナンスを理解していない」と批判。これに対し、ツルハ側は「オアシスの主張は抽象的で憶測の域を出ない」と断じた。
アイ・アールジャパンHDの資料によると、物言う株主による日本企業への株主提案は、令和4年は58件で前年の28件から2倍以上に増加。今年は8月末時点で69件となっている。
企業統治に詳しい近畿大経営学部の芳澤輝泰准教授は「日本では株式の相互持ち合いなどによって、多くの企業で経営者が支配する状況にあり、業績不振や不正の大半はこうした状況下で起こっている」と指摘。「物言う株主は企業経営に関心がなく、株式売却で利益を得ることしか考えていない場合もきわめて多い」としながらも、「株主による経営者への牽制(けんせい)にはなる」と述べ、株主提案の増加に肯定的な見方を示した。(桑島浩任)