主張

新回廊構想 自由で開かれた経済軸に

9日、ニューデリーのG20サミット会場で、集合写真を撮る(右から)米国のバイデン大統領、南アフリカのラマポーザ大統領、インドのモディ首相、ブラジルのルラ大統領、世界銀行のバンガ総裁(ロイター)
9日、ニューデリーのG20サミット会場で、集合写真を撮る(右から)米国のバイデン大統領、南アフリカのラマポーザ大統領、インドのモディ首相、ブラジルのルラ大統領、世界銀行のバンガ総裁(ロイター)

バイデン米大統領やモディ印首相ら各国の指導者が、インドから中東、欧州を結ぶ新しい経済回廊を構築する覚書を交わした。

覇権主義の道具と危惧される中国主導の巨大経済圏構想「一帯一路」やロシアの中東諸国などへの影響力拡大の企てへの対抗軸となることを期待したい。

これは「インド・中東・欧州経済回廊」(IMEC)構想で、20カ国・地域首脳会議(G20サミット)開催中のインド・ニューデリーで発表された。サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、仏独伊、欧州連合(EU)のリーダーも覚書締結に臨んだ。

中東を鉄道で結び、航路でインド、欧州とも接続して輸送時間やコストを削減し、交易の効率を高める。回廊内での投資を拡大し、物流インフラやインターネットのケーブル、電力網を拡充していく。

世界一の人口大国で経済成長著しいインドと豊富な石油・天然ガスを埋蔵する中東、先進技術を有する欧米が連携して新たなビジネスチャンスを生み、成長を図る狙いがある。

日本を含む先進7カ国(G7)主導で途上国のインフラ整備を支援する枠組み「グローバル・インフラ投資パートナーシップ」の一環でもある。「グローバルサウス(GS)」と呼ばれる新興・途上国との連携に生かしたい。イスラエル、ヨルダンもIMECに参加予定で、中東の緊張緩和も期待できる。

中国の習近平政権による「一帯一路」は今年で10年を迎える。だが、融資を利用して中国の政治的、軍事的影響力拡大につなげる「債務の罠(わな)」が問題視されてきた。中国が約束したインフラ投資の多くが順調に進んでいるとは言いがたい。さらに最近の中国経済の減速で先行き自体が危ぶまれている。

G7で唯一、一帯一路に参加していたイタリアはメローニ首相が、ニューデリーで中国の李強首相に離脱の意向を伝えた。年内に正式通告の見通しだ。

「一帯一路」構想が揺らぐ今、IMECの意義は大きい。バイデン大統領は「形勢を劇的に変える」と強調した。参加国は資金調達の枠組みや具体的な投資計画を早急にまとめ、IMECを起動してもらいたい。それが、自由で開かれた国際社会をつくることにつながる。

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