小林繁伝

岡田に外野指令…ブレイザー監督と記者の確執 虎番疾風録其の四(307)

キャンプで外野の守備練習をする阪神の岡田(右)=昭和55年3月9日、米アリゾナ州
キャンプで外野の守備練習をする阪神の岡田(右)=昭和55年3月9日、米アリゾナ州

昭和55年、ブレイザー監督はシーズン途中で退団する。当時、原因は小津球団社長との「確執」といわれた。

ヒルトンに代わる外国人選手の獲得で2人の意見が合わなかったのは事実。だが、小津社長は最後の最後までブレイザー一家のことを支援した。「確執」があったのはむしろ虎番記者との間である。そのきっかけとなる〝事件〟がこれだ。

3月6日、ブレイザー監督は大洋とのオープン戦ではヒルトンを「2番・一塁」で起用し、岡田を先発メンバーから外した。そのヒルトンが三回に左中間へ特大のホームランを放った。

試合後、ブレイザー監督は「どうだ」といわんばかりの笑顔だった。

「ヒルトンは肩ができれば一塁と二塁の両方をやらせる。岡田? できるだけ使っていくが、まずは戦えるチーム作りが先だ」

岡田では戦えないとでも言うのか? ブレイザー監督の言葉に報道陣はざわついた。

――掛布も1年目から使われて順調に成長してきた。岡田はどうなのか?

記者の質問にブレイザー監督は答えない。不愉快そうな顔で自分のユニホームを脱ぐような格好をしてみせた。《それだけ言うのなら、お前たちがユニホームを着て監督をしてみろ》といわんばかりに―。

翌7日、さらなる〝事件〟が起こった。午前中の守備練習で突然、岡田に「外野」の指示が出されたのだ。

首をひねりながら一塁から外野の守備についた岡田がノックの打球を追う。わずか10分で終わったが、ベンチに帰ってきた岡田の表情は複雑そのもの。

〝先発外し〟に続く突然の〝外野指令〟。追いやられる岡田…。報道陣のブレイザー監督への質問も言葉尻がきつくなった。

――岡田を外野に回すということは「一塁」がダメということか。

「いや、違う。彼は三塁を守っていたし一塁守備も勘がいい。あとは場数さえ踏んでくれればと思っている」

――数日前に〝外野に岡田の割り込む余地はない〟と言っていたではないか。

「確かに言った。だが、3人(佐野、ラインバック、竹之内)を抜くつもりでやってほしい」

――するとヒルトンの「一塁」は決定したということか。

報道陣の執拗(しつよう)な質問にブレイザー監督はうんざりした表情を見せた。(敬称略)

■小林繁伝308

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