主張

矯正行政の転換 志ある刑務官あってこそ

名古屋刑務所=愛知県みよし市
名古屋刑務所=愛知県みよし市

矯正行政は明治以来の大転換期にあるが、刑罰理念を「懲罰」から真に「更生」に変えられるか。名古屋刑務所の暴行事件は様々(さまざま)な問題を問うている。

約20年前に刑務官7人が有罪となる受刑者死傷事件が相次いだ名古屋刑務所で昨年12月、再び受刑者への暴行が発覚した。監獄法を改正、刑事収容施設法を施行し、刑務官に人権尊重研修を義務付け、外部人材の刑務所チェック制度が整えられたはずだった。が、機能していなかったことになる。

今回の暴行に関与した刑務官は22人で20~30代と若く、16人が採用3年未満だった。新人が教官、受刑者と直接対面して対応方法を学ぶ初等科研修など、重要な教育機会が新型コロナ禍でリモート形式になったことが悪影響した―と指摘される。

名古屋刑務所は特性上、犯罪傾向の進んだ受刑者が集まり、高齢、障害者も多い。難しい現場だ。リモート研修などで太刀打ちできるものではない。懐の深い人間力が求められる。

「指示に従わず、大声を出し、腹が立った」と刑務官は説明したというが、見本となるべきベテランや、組織は何をしていたのか。夜間、休日には100人の受刑者を若手1人で担当することもあったという。若手を孤立させていなかったか。教育と体制充実が急務だ。

悪質として特別公務員暴行陵虐容疑などで書類送検された13人を検察は起訴猶予としたが、違和感がある。問題の所在を法廷で明らかにした方が改革を進めるのに良いのではないか。

昨年の刑法改正で、刑罰は令和7年までに懲役・禁錮が廃止され「拘禁刑」に一本化される。受刑者個人に応じたきめ細かい再犯防止、矯正指導を行い、再犯者の減少を目指す。その主舞台は刑務所である。

忘れがちだが、刑事司法の終着点は判決ではない。判決が実際に効果を出し、再犯がなくなって初めて、その役割は完結する。警察官、検察官、弁護士、裁判官、刑務官が被告・受刑者の贖罪(しょくざい)意識と立ち直りを促すのが刑事司法のあるべき姿だ。

とりわけ刑務官の役割は大きい。指導力と影響は刑法改正で強まる。法務省は行動計画に沿って改革を進めるというが、志と力量のある刑務官あってこその改革だ。その自覚と誇りを全国の刑務官に持ってほしい。

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