【ジュネーブ=板東和正】ロシアの侵略を受けるウクライナに対し、欧州諸国が軍備供与を含む支援を拡大している。これまで米国が主導的な立場を担ってきたが、欧州連合(EU)加盟国などが約束した支援額が米国を抜いた。北欧を中心に米製戦闘機F16の供与を急ぐ動きも目立つ。ウクライナの軍事力強化に役立つとの期待が高まるが、ウクライナ操縦士の飛行訓練に時間を要するといった課題が指摘されている。
キール世界経済研究所(ドイツ)によると、2022年1月から03年7月末までのEU加盟国・機関が約束した支援額は約1319億ユーロ(約20兆8千億円)となり、約695億ユーロ(約10兆9千億円)の米国を上回った。
同研究所のクリストフ・トレベシュ研究センター長は、「米国が支援を主導していた戦争の1年目と比較すると、注目に値する変化だ」との見解を示した。
同研究所は、EU支援が急拡大したのは、EUや欧州諸国が近年、複数年にわたる支援を打ち出したためと分析する。EUのフォンデアライエン欧州委員長は6月、24年から27年にかけ500億ユーロ(約7兆8千億円)をウクライナに提供する方針を表明。同研究所によると、ドイツも最近、4年間の105億ユーロ(約1兆6千億円)相当の支援を表明し、英国やノルウェー、リトアニアなども複数年の支援を約束した。
米国などでウクライナへの「支援疲れ」が懸念される一方、ロシアと地理的な距離が近い欧州諸国では、戦争が長期化すれば「安全保障に影響する」(軍事専門家)との危機感が広がっている。
オランダやデンマーク、ノルウェーは8月、ウクライナの反転攻勢を前進させるため、F16戦闘機の供与を表明した。ウクライナは従来、主にロシア軍に対抗するため欧米にF16の供与を求めてきた。F16が「防空力を高め、都市や集落からロシアのテロリストを遠ざけられる」(ウクライナのゼレンスキー大統領)ことが期待されるためだ。
今後はF16の運用を開始する時期が焦点となる。供与は操縦士の訓練終了後とみられ、数カ月かかる公算が大きい。米メディアによると、ウクライナ空軍のパイロットは、英語でF16を操縦するための専門知識を学ぶ必要がある。現時点で十分な英語の能力を備えた操縦士は多くないとみられている。操縦訓練の完了時期が24年夏以降との見方もあり、F16の戦地投入を急ぐウクライナ側にとって課題となる。