※2009年4月10日 産経新聞掲載
「家の中は笑いで満ちていた」
作家、北杜夫さん(81)の躁鬱病について、娘でエッセイストの斎藤由香さん(47)は「父のおかげで家の中は笑いに満ちていました」と振り返ります。斎藤さんの言葉には、家族の病気に向き合うヒントが感じられます。
私が小学1年のときでした。軽井沢から帰ると、食卓にあったチラシの裏に「キミ子(母の名前)のバカ!」と書いてあった。父は穏やかで言葉遣いも丁寧だったので、母と「パパ、どうしちゃったんだろうね」と話していたら、それがどんどんパワーアップしてきました。
ある日、「好きなように生きたいから、喜美子も由香も家から出ていってくれ」って。それで母の実家に帰ったこともあります。夜中に目が覚めると、叔母が祖母と「お姉さまはいつまでいらっしゃるの?」と話しているのが聞こえて。子供心に聞いちゃいけない会話を聞いた気がしました。
鬱のときの父は1日1食。夕食に起きてくるだけで一言もしゃべらないのですが、躁病のときはにぎやかで楽しかったです。株でお金がなくなり、私のお年玉まで使われたのは困りましたが。