技術を人に伝えるのは難しい。投球でも打撃でも、人の数だけ理論がある。言葉が専門的になりすぎても伝わらない。それゆえ「ビューッと来たらバーンと打て」(長嶋茂雄氏)などと、つい感覚的な言葉が多くなってしまう…。
▼野球評論家の豊田泰光さんが、生前、悩ましげに書いていたのを思い出す。<好打者はアレコレソレで物を言い>。自作の川柳には自戒がにじむ(『豊田泰光108の遺言』)。でも豊田さん、あいまいな言葉が幸いすることもあるみたいですよ。
▼「優勝」と言わずに「アレ」。チームの目標を隠語に置き換えた、阪神の岡田彰布監督である。選手の負担を除くための言葉が、乗りのいい虎党の間でブームとなった。いまや「アレ(ARE)」と口にするだけで高揚感と連帯感が生まれる。天下無双の合言葉に育ったらしい。