インターネット時代におけるNHKのあり方をめぐる議論が進んでいる。今後の受信料制度にもかかわるであろう重要なテーマなのだが、取材時に気になった点がある。肝心のNHKが語る言葉があいまいで分かりづらいのだ。
例を挙げる。NHKは総務省の有識者会議で、ネット業務の必須化の意義について、フェイクニュースも多いネットでの「情報空間の参照点の提供」などを挙げた。必須業務化に際しては、「放送と同様の効用」の範囲に限り実施するのが適切だという。あいまいでよく分からない…と思っていたら、有識者からも同様の指摘を受けていた。
同じ記者側の目線として、NHKの報道は(良くも悪くも)分かりやすい表現に心を砕いているのが伝わる。それなのになぜNHKは、自身の未来図を語る段になると口が重たく、分かりづらい言葉に終始するのか。理由はさまざまだが第一には、急速にネットシフトが進む今、公共放送としての自らの存在意義を、説得力のある明確な形で示せていないからではないか。
NHKに厳しい視線を向ける理由は受信料だけではない。独自の役割もあるからだ。昨年、気鋭の軍事評論家に取材した際、日本が台湾有事に巻き込まれた場合、戦闘は無人の東シナ海で起きる可能性がある―との指摘を受けた。だからこそ、確度の高い情報を国際的に先んじて発信することが必要になるし、海外向けの国際放送を持つNHKも重要な役割を担うことになる(国際放送が有効に機能しているかの検証も必要なのだが、それはまた別の話)。
ウクライナの公共放送「ススピーリネ」のミコラ・チェルノティツィキー会長は5月の来日会見で、戦時下の重要なメディアとしてラジオを挙げた。今回の侵攻で露軍がまず狙ったのはテレビの放送施設。露の放送に切り替えプロパガンダ(政治宣伝)を流すためだ。通信インフラの破壊によりネットが使えない場面もあり、ラジオが情報発信の際非常に有効だったという。当事者の言葉だけに説得力があり、全国向けのラジオ放送も担うNHKにはこの点を特にくみ取ってもらえればと思う。
NHKの真価は災害時などの緊急報道にある。交流サイト(SNS)での発信も大事だが、有事の際の対応力を磨くことこそが本来の意味での〝必須業務〟なのではないか。
◇
本間英士 平成20年入社。前橋、大津支局などを経て文化部。放送・漫画担当。書評「漫画漫遊」、アニメなどを扱う「ポップカルチャー最前線」を執筆。