ローマ歌劇場が「椿姫」と「トスカ」というイタリアオペラを代表する2演目をもって来日公演を行っている。公演直前の9月11日、都内のホテルで記者会見が行われた。同歌劇場のフランチェスコ・ジャンブローネ総裁は「イタリアのオペラにイタリアの指揮者、それに合唱団にバレエ団も連れてきました。私たちはイタリアの芸術を紹介できることに自信を持っています」と話した。
ローマ歌劇場は1880年、コスタンツィ劇場として開場した。1900年には「トスカ」を世界初演している。王立歌劇場、そして46年にローマ歌劇場に改称された。終身名誉指揮者のリッカルド・ムーティ、音楽監督ダニエレ・ガッティに続き、ミケーレ・マリオッティが昨年11月、音楽監督に就任した。今回で5度目の来日公演になる。
マリオッティは1979年、イタリア・ペーザロ生まれ。ロッシーニ音楽院で学んだ。2008年から18年までボローニャ歌劇場の音楽監督などを務めた。
「『トスカ』『椿姫』とも毎回、初演のような気持ちで指揮をしています。古い作品とは思いません。新しい気持ちで楽譜を見ることに意味があると思います。2作品とも女性がないがしろにされます。トスカはスカルピアを殺してしまいますが、もちろん殺人は正しいこととはいえませんが、本当に悪いことなのかものすごく考えさせられます。『椿姫』のヴィオレッタはすごく強い女性ですが、なぜアルフレードとの恋を諦めたのか。彼女は病に侵されていることを知っており、自分が身を引くことで、彼が新しい家族を作ることができると思ったのです」とマリオッティは話した。
「椿姫」はヴェルディが1853年に作曲した。原作はデュマの小説。ヒロインのヴィオレッタは高級娼婦で、青年貴族アルフレードと恋に落ちる。娼婦をやめたヴィオレッタは自分の財産を切り売りして生活を支えている。アルフレードの父ジェルモンが訪ねて来て、妹の縁談に差し支えるので別れてほしいと頼む。ヴィオレッタは何も言わずにパリに向かう。父親から結婚を許すという手紙が来たときには、肺結核に侵されたヴィオレッタには死が迫っていた。オペラの原題は「ラ・トラヴィアータ」、道を踏み外した女の意味だ。
プッチーニの傑作「トスカ」の舞台は1800年頃のローマ。歌手トスカの恋人は画家のカヴァラドッシ。カヴァラドッシは逃亡してきた政治犯アンジェロッティを自分の別荘にかくまうが、警視総監スカルピアに捕らえられる。トスカはスカルピアに助命を請うが、体を求められ、スカルピアを刺し殺してしまう。カヴァラドッシには射殺命令が出されている。トスカはスカルピアが約束してくれた空砲であることを疑わない。しかし、その約束は噓だった。悲嘆にくれたトスカはサンタンジェロ城から飛び降りる。
「椿姫」のヴィオレッタを歌うリセット・オロペサは「ヴィオレッタはとても複雑な役です。罪を抱えて償いに懸命ですが、彼女に救済は訪れないのです。病と社会の犠牲になります。音楽は信じられないくらい美しい。愛が最上の美の形で歌われますが、現実には相反することが起きているのです」と話す。
「トスカ」でカヴァラドッシを歌うヴィットリオ・グリゴーロは「『トスカ』は私の宝物です。1998年に初めて『トスカ』の舞台に立ちました。幾度となく歌ってきましたが、場所も違うし、マエストロも異なるので同じ『トスカ』にはなりません。何より私自身が変化しているのです。オペラというのは歌いながら演技をします。テンポに合わせて歌い、演技をすることは難しい。そして自分自身の表現をしなければいけないのです」と話した。
「椿姫」の演出はアメリカの映画監督・プロデューサー・脚本家のソフィア・コッポラ。父は映画「ゴッドファーザー」のフランシス・フォード・コッポラ監督。衣装は「ヴァレンティノ」のデザイナー、ヴァレンティノ・ガラヴァーニ。このプロダクションはローマ歌劇場で2016年に初演された。
2008年に初演された「トスカ」の演出はイタリアの著名な映画監督で演出家フランコ・ゼッフィレッリ。生前「様式にかなった舞台美術に、新たな工夫をいくつか。音楽やドラマを守っていれば決して間違うことはない。極悪な官憲、その手先、堂守まで、一人一人がかけがえのない登場人物だ」と話している。
「椿姫」の公演は16、18日に東京文化会館(東京・上野)で。「トスカ」は17日は神奈川県民ホール(横浜)、21、24、26日は東京文化会館。(江原和雄)