「移民」と日本人

英は「ストップ・ザ・ボート」、日本は「難民かわいそう」 岐路に立つ2つの島国

英仏海峡に近い不法入国者の一時収容施設の入り口。施設名などはない =8月、英南東部マンストン
英仏海峡に近い不法入国者の一時収容施設の入り口。施設名などはない =8月、英南東部マンストン

日本国内で不法滞在の外国人が増える中、不法移民の流入が続く欧米では、どのような手段で彼らを祖国へ送還しているのか。とりわけ同じ島国である英国では近年、英仏海峡をボートで渡ってくる難民が激増。「ストップ・ザ・ボート」をスローガンに7月には彼らの難民申請を認めないとする法律が成立した。一方の日本では「労働開国」が急速に進みつつあり、不法滞在者をめぐっても一部マスコミなどから「日本は難民に冷たい」などの批判が上がる。2つの島国は今、大きな岐路にある。

2年で500%増「英国の現実知るべき」

英仏海峡の玄関口ドーバーの北約30キロにあるマンストン村。トウモロコシ畑が広がる田園地帯に鉄条網と監視カメラに囲まれた施設がある。水際で阻止された不法入国者が一時的に移送され、身元調査などを受ける。

入り口に施設の名称などはなく、周囲もカバーに覆われて中の様子はうかがえない。警備犬のほえる声だけが頻繁に聞こえる。近くに住む白人男性によると、一部住民が施設に反対しており、施設の目的はあまり公にされていないのだという。

英内務省の統計によると、英仏海峡をボートで渡る不法移民は2022年、4万5千人以上と過去2年間で500%増加。沈没事故もしばしば発生し、8月にはアフガニスタン人約60人を乗せた船が転覆して6人が死亡した。数十隻の移民船が一度に集中したための事故だという。

施設は昨年2月にできたが、ベッドが不足しジフテリアの感染症が蔓延した。不法入国者はこの施設を経て、処分が決まるまで民間ホテルなどに滞在させるが、その費用は年間約30億ポンド(約5500億円)という。

近くに住む30代の白人女性は赤ん坊をあやしながら「よりよい生活を求めてこの国へ来る人は、不法入国でも助けるのが当然と思う」。

一方で、ロンドンから移住した60代の白人男性は「移民は決して同化しようとしない。イスラム教徒とヒンズー教徒が乱闘を起こすなど好き放題だ。日本も移民を積極的に受け入れようとしているというが、英国の現実を知るべきだ」と話す。

米国は12機の専用機保有

英国は1997年のブレア労働党政権発足を機に移民政策を転換、労働力不足を補うため欧州連合(EU)域内の外国人を積極的に受け入れた。2020年のEU離脱後は、代わってEU外からの外国人が急増した。

その結果、総人口に占める外国人の割合は、日本の約2%に対し約14%。ロンドンでは約37%に及ぶ。労働移民が増えるにつれて不法移民も増加し、昨年度に送還された人は水際での摘発も含め、日本の約10倍の約4万人にのぼるという。

島国である英国は、わが国同様、送還に航空機の定期便やチャーター機を使う。大陸側のEU加盟国では、共同の専門機関が送還業務を担っており、海路のフェリーや陸路のバスも使われる。

米国の場合、中米だけでなく海を渡っての不法移民も多く、政府機関が専用機を12機保有し、毎年150カ国以上へ送還しているという。

中傷対応にビデオ録画は不可欠

昨年10月に発足した英スナク政権では「ストップ・ザ・ボート」のスローガンを掲げ、不法移民の取り締まりを強化。

EU離脱後の深刻な労働力不足に見舞われる中でも、ボートによる密航者の難民申請を認めない法律を成立させたほか、不法移民の雇用者に科す罰金を最高6万ポンド(約1100万円)に、不法移民に部屋を貸した家主に対する罰金を最高5千ポンド(約90万円)に、それぞれ引き上げる方針だ。

一方、日本では、「労働開国」が急速に進んでいる。6月には熟練外国人労働者の永住や家族帯同が認められる「特定技能2号」の受け入れ対象拡大が閣議決定された。永住外国人が増え続ければ事実上の「移民政策」になりかねないとの懸念は与党内にも強い。英国のように不法移民の増加も懸念される。

強制送還や収容をめぐっては実際に職務にあたる出入国在留管理庁に対し、「非人道的」「人権無視」などの中傷が一部マスコミや人権団体などから相次ぎ、裁判で訴えられることもある。こうした事態に対応するため、同庁では常時監視が必要な不法滞在者と接する様子は必ずビデオに録画しているという。

元入国警備官は言う。「最近は以前にも増して『かわいそうな難民をいじめるな』という目で見られる。現場は相当疲弊している」

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