京アニ公判

小説落選をきっかけに生まれた憎悪、「単独の攻撃者」へと変貌

青葉真司被告
青葉真司被告

36人が死亡し、32人が重軽傷を負った令和元年7月の京都アニメーション放火殺人事件で、殺人罪などに問われた青葉真司被告(45)の裁判員裁判の第6回公判は、14日午前10時半から京都地裁で開かれ、初めて検察側からの被告人質問が行われる見込みだ。13日の公判では、京アニのコンクールでの落選などを機に同社に憎悪を抱き、地元の埼玉で無差別殺傷を起こそうとした経緯が明かされた。スマホを解約し、差し伸べられた手を拒むようになった被告。孤独と絶望を背景に、その本質はローンオフェンダー(単独の攻撃者)へと変貌していく。

闇の人物「ナンバー2」の脅威

平成24年に起こしたコンビニ強盗で実刑判決を受けた被告。刑務所内で耳にした、アイドルグループAKB48のヒット曲「恋するフォーチュンクッキー」のいくつかの歌詞を引用しながら、自分と自分を付け狙う「闇の人物でナンバー2と呼ばれる人」との関係をうまく表現していると述べた。「ナンバー2の存在をまだ知らなかったが、向こうは(自分に)何らかの興味を持っていたようだ」(被告)。

被告は28年、京アニ大賞に、自身が執筆した2つの作品を応募した。その名も「仲野智美の事件簿」と「リアリスティックウェポン」。そのうちの1作品が落選したと知ったときの気持ちを尋ねられると「がっかりした。裏切られたという思い」。

一方で、その落選についても思うところがあったらしい。仕組んだのは「闇の人物でナンバー2と呼ばれる人」(被告)。さらにこのナンバー2は、「アニメ、ゲーム、テレビ業界に顔が利く」ため、「(ナンバー2が)自分に発言力を持たせたくなかったので、圧力をかけて落選に持っていったのではないか」と推察した。

「最後の段階に行く直前」

29年5月、さらに心を揺さぶられるできごとがあった。恋愛感情を抱いていた京アニの女性監督のブログを閲覧した際に、その内容と自身の小説に類似点があったのだという。法廷で被告は「落選させておいてブログに上げるのか、という疑念を持った」と話した。

その後は京アニや女性監督から距離を置こうとした。「同人活動をしよう」と考えた被告は、京アニ大賞に応募した作品のラストシーンを変更するなどし、小説投稿サイト「小説家になろう」で公開。しかし、サイト上で誰かが作品を閲覧した形跡はみられなかったため、サイトを退会してしまった。「(作品を)見てもらえなかった。へこんだことが退会の理由の一つ」。

そして「小説や京アニと関わりたくない」と考えた被告は、10年間書きためたアイデア帳をついに燃やした。しかし、30年にテレビ放映された京アニ作品「ツルネ」を偶然見る機会があり、ここでも自身の小説を盗用されたと感じた。京アニ側に憎悪を抱くようになった被告は匿名掲示板にこういった趣旨の書き込みをした。「爆発物を持って京アニに突っ込んだり、無差別テロをしようとするわけでもないんだから」。当時の心境を尋ねられると「最後の段階に行く直前の段階という意味で書いた」などと述べた。

秋葉原事件を参考に、大宮へ

31年3月には、女性監督や京アニに関する情報に接することは「精神衛生上よくない」と考え、スマホを解約した。統合失調症と診断され、訪問介護・看護のサポートを受けながらアパートで1人暮らしをしていたが、そうした支援も拒むようになった。上の階の住民からの騒音にも悩まされていたといい「いいことは何も続かず、最終的に人に会うのがいやになった」と振り返った。

周囲との関係を絶つ中で、京アニ側への憎しみを募らせていった被告。「何かしらのメッセージ性を込めた犯罪をしないと、(京アニと自分を監視する「闇の組織」から)離れられないのでは」と考え、次の行動に出た。

京アニ事件の約1カ月前の令和元年6月。さいたま市の大宮駅前での無差別殺傷を計画した。「(大きな事件を起こすことで京アニが)作品をパクったことが害を生む結末になると伝えられると思った」と被告。計画の中身については詳細には考えていなかったものの、17人が死傷した平成20年の秋葉原無差別殺傷事件を参考に、刃物を6本購入して現地に向かったという。ただ駅前の人の密集度が低く、秋葉原のような犯行にはならないと考え、断念したと明かした。

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