知の巨人⑩完
※2001年6月3日 産経新聞掲載。敬称略
人間味豊かな南方
南方熊楠は、無邪気な人であった。
昭和5年前後に約2年間、南方家で〈およどん(お手伝い)〉をしていた泓田千代子さん(88)が、今年5月、和歌山県日置川町の自宅で思い出を話してくれた。
「お姉さん(長女の文枝)がお通じをよくするために、サツマイモのおかゆをたくんですね。あるとき先生便所いったら『松枝、文枝、はさみもってこい』て呼びやる。『腸出てきたから切ってくれ』てね。奥さん(松枝)があわててはさみ持っていったらあんた、こう長うなってね。通じの具合が悪かったんですな。腸と違うて、切るほどやなくて、便を引っ張ったらしいけどね。先生『腸じゃなかった。よかったよかった』いうてね。はははは」