日本版DBS 有識者議論大詰め 業種、犯罪、罰則 どうなる

子供と接する職業に就こうとする人に性犯罪歴がないことを確認する新制度「日本版DBS」に関する有識者の議論が、大詰めを迎えている。5日に実施される5回目会議で、制度の方向性が報告される予定だが、拮抗(きっこう)している論点や〝抜け穴〟への懸念も残る。こども家庭庁は報告を踏まえ秋の臨時国会へ法案提出を予定するものの、なお曲折が見込まれる。

業種の範囲

日本版DBSは英国の政府系機関「DBS(Disclosure and Barring Service)」をモデルとした制度。DBSは「前歴開示および前歴者就業制限機構」で、日本版では、事業者側が職員らの採用時、政府が構築する照会システムで犯歴を確認する流れが想定されている。

有識者会議は法律や心理学の専門家、保護者関連団体のメンバーらで構成。6月下旬の初開催以降、論点を整理し個別課題を議論してきた。

最大の懸案は、どんな事業者のどんな業務をDBS照会の対象とするのかという点。会議では、範囲をできる限り広くとる必要があるとの認識では一致した。

事業者の該当基準として、①時間単位のものを含めて子供と接触度が高い②教育や指導を担うなど非対称の力関係がある③子供と接触しても他者の目に触れにくい状況を作り出すことができる-の3点を設定。具体的には学校や保育、児童福祉関連、学習塾、スポーツクラブ、ベビーシッターなどが挙げられた。

業種でも、例えば学校では教師だけに限らず用務員などを含めた全従事者を、さらには雇用関係がないボランティアなども捕捉すべきだとの意見が多くを占めた。

ただ、これら全ての事業者に照会を義務化するかは意見が割れた。行政の指導監督対象となる学校や保育園などと異なり、学習塾など民間事業者は確認の目が届きにくい。法律の専門家の委員からは「事業団体側すら十分に把握し切れていない零細事業者もある。いきなり全て義務化は難しい」との指摘が出た。

犯罪の種別

このため、政府は現状、まずは小さい規模で制度を発足させる「スモールスタート」の意向だ。塾などは任意の利用を想定し、利用した場合は「マル適(適合)マーク」の付与を検討している。こども家庭庁関係者によると、塾業界からは風評リスク回避などの目的で利用に積極的な声が多いといい、「自発的な活用が広がり、実質的に義務化となっていく可能性はある」とする。

犯罪の種別も線引きの必要がある。

会議では、照会システムへの登録犯罪に関し、不同意わいせつ罪など刑法犯を中心に、刑事裁判で有罪判決を受けて確定した経歴を示す「前科」は、対象とすることで基本的に一致。起訴はされなかったが逮捕など捜査対象になったことを示す「前歴」を含めるかは賛否が分かれた。同じ不起訴でも嫌疑が明白な「起訴猶予」は対象にすべきだとの指摘もあった。痴漢などの迷惑防止条例は都道府県ごとに内容が異なるなどとして消極的な意見が多かった。

罰則のあり方

制度の実効性を巡っては、罰則のあり方も課題となった。同種制度を既に導入している他国では、照会義務を怠ったり無資格者を雇用したりした場合、事業者側に罰金を科すなどしている。

今回の議論では、憲法が定める「職業選択の自由」との兼ね合いで、雇用の可否は事業者判断とする一方、採用する場合は子供を守るための安全措置を講じることを義務化。実際上、犯歴者が子供と接する職に就くことを抑制する仕組みが妥当との見方が示された。

安全措置や照会義務違反には何らかのペナルティーを科す方向。こども家庭庁は「罰則の具体的な内容は課題」としている。(中村翔樹)

子供の性被害 リスク低下も対応不十分

日本版「DBS」 子供守る仕組みは急務だ


会員限定記事会員サービス詳細