フランス公立学校 イスラム教徒の長衣を禁止 宗教色を服装規制で封じ込め 摩擦の懸念も

イスラム教徒の女性用長衣アバヤ(三井美奈撮影)
イスラム教徒の女性用長衣アバヤ(三井美奈撮影)

【パリ=三井美奈】フランス政府は9月の新学期から、公立学校でイスラム教徒の女性用長衣アバヤの着用を禁止した。マクロン大統領は「わが国の公教育は政教分離が原則。宗教を示すものがあってはならない」と訴えた。服装規制には、イスラム移民2世や3世が宗教で自己主張しようとするのを封じる狙いがあるが、新たな摩擦を招くとの懸念も出ている。

フランスは2004年、公立学校で「宗教シンボル」を排除する法律を施行し、イスラム女性が髪をスカーフで覆うことを禁じている。政府は8月31日の通達で、アバヤを禁止対象に追加。さらに、イスラム男性が着る長衣カミスも禁止した。説得しても生徒が着用をやめない場合、学校は処罰できるとしている。

アバヤやカミスは胸元からかかとまで覆う服装。主にアラブ圏で着用されており、「仏イスラム教評議会」(CFCM)は「宗教シンボルとみなすのは誤り」と抗議した。移民社会で着用は一般化しており、パリ郊外のイスラム教徒の会社員マリヤムさん(23)は「服装を口実にした差別」と憤りを示す。インターネット上では「長衣をアバヤではなく、ロングスカートだと言って規制をかわす方法」を生徒に伝授する動画も広がる。

イスラム教徒の男性用長衣カミス(三井美奈撮影)
イスラム教徒の男性用長衣カミス(三井美奈撮影)

フランスでイスラム教徒への服装規制は強まるばかり。11年には、公共の場で女性がベールで顔を隠すことを禁止された。最近はスポーツ大会で髪をスカーフで覆うことを禁じたり、「ブルキニ」と呼ばれるイスラム女性用の水泳スーツを公営プールから排除したりする動きが広がる。背景には、イスラム人口の増加に伴い、国是である政教分離が脅かされているという不安がある。世論調査では77%が「イスラム主義は国の脅威」と答えた。

特に学校現場の危機感は強い。20年には、中学で預言者ムハンマドの風刺画を生徒に見せた教員がイスラム過激派に惨殺されるテロが起きたためだ。宗教をめぐる校内トラブルは年々増加し、今年1~5月には2000件以上報告された。長衣を着て登校するイスラム教徒が増え、学校に戸惑いが広がっていた。

仏ナンテール大のイスマイル・フェラト教授は「中東でアバヤやカミスは単なる伝統衣装とみなされるが、フランスでは若いイスラム教徒が教員を挑発する手段になった。彼らは社会で差別に直面し、宗教を通じて自分の尊厳を保とうとしている」と指摘。規制で封じ込めれば、反発を強めるだけだと警告する。

フランスは政教分離を憲法で定める。原点は19世紀、義務教育からカトリック教会の影響を排除した法律にあり、いまも学校の脱宗教化は共和国の基盤とみなされている。今回の長衣禁止に急進左派は「宗教狩り」と反発したが、共産党から極右まで保革野党の多くは支持を表明している。

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