これほど切なく胸を締め付けるショーがあっただろうか。兵庫県宝塚市の宝塚大劇場公演で上演中の宝塚歌劇団月組公演「万華鏡(ばんかきょう)百景色」は、伝統的な宝塚のショーの枠を超えた、新時代のセンスが光る秀作だ。今昔の「東京」を舞台に悲恋の男女が輪廻転生を繰り返し、数百年後に結ばれるストーリーは最後に全てがつながる短編小説のよう。トップスター、月城かなととトップ娘役、海乃美月が織りなす恋の絵巻に魅了される。
明確なストーリーとせりふで芝居仕立てになっているという点で、従来のショーとは一味違う。
江戸の花火師(月城)と花魁(おいらん、海乃)は許されぬ恋。逃避行を図るが引き裂かれ、「いつの世にか2人で」との切なる願いで輪廻の旅が始まる。江戸時代から令和まで、観客は東京の変容を定点観測しながら、形を変えては巡り合う2人の魂の行方を見届ける。
明治の鹿鳴館では、2人は一夜限りとはいえ手を取り合い踊るが、焼け野原が広がる戦後には闇市のドンと娼婦となり道を分かつ。現代のシーンではカラスと1人の女性に転生し、もはや愛に気付くこともない。
月城と海乃は鹿鳴館では優雅に、闇市ではすれた色気を漂わせ、各時代で万華鏡のように巧みに表情を変える。ショーらしいさまざまなダンスにも引き込まれるが、月城がふと、にじませる「何か」が欠けている感覚によって、通底する切なさに揺り戻される。
だからこそ、2人がようやく結ばれるデュエットダンスには大きな喜びが広がり、胸が熱くなった。
語り部的役割の、万華鏡に宿る付喪神(つくもがみ)を演じる鳳月杏(ほうづき・あん)は、人ならざるものの、しんと冷えた鋭さがよく似合う。一方、芥川龍之介の「地獄変」をモチーフにした場面では狂気に取りつかれた男の激情を激しい踊りで表現し、唯一無二のきらめきを放った。
今作は作・演出の栗田優香の大劇場デビュー作。きらびやかな歌とダンスで彩るオーソドックスなショーを好む人も多いだろうが、伝統はこうしてアップデートされていくのだと見せつけられる。
同時上演のミュージカル「フリューゲル-君がくれた翼-」(齋藤吉正作・演出)は東西ドイツの統一をテーマにした物語だ。
月城演じる生真面目な東ドイツの軍人ヨナスと、海乃演じる西ドイツの奔放な歌姫、ナディアの対等な関係性が爽やか。ナディアのマネジャー役の風間柚乃が要所要所で場を和ませ、物語のバランスを保った。(田中佐和)
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9月24日まで。東京宝塚劇場は10月14日~11月19日。