避けてきた「叱る」
誰かを叱るということが、私は得意ではない。他人の非を打つにあたっては、半面、自身に正当性が強く求められ、そして何より相手との関係を損ねるおそれがある。そのリスクを軽減するには最低限相手への「思いやり」を根底に持つことが必要になるが、それでも叱責は一時的にマイナスの感情を引き起こす行為であり、最終的に自分の真意が届く保証もない。
音楽学校入学から劇団を退団するまでの間、私は一般的に見て厳しいといえる上下関係の中で生活をしていた。常に「指導」を受け、逆に後輩に対してはそれをすることが求められ、そこには叱責を伴うものも当然にあった。