怒りの感情と上手につきあう心理トレーニング「アンガーマネジメント」を学ぶ子供向きの講習が増えている。パワハラ防止などを目的に企業の管理職研修などで行われることが多いが、最近は受講対象が子供にも広がっているという。新型コロナウイルス禍での抑圧された生活から上手に他者とコミュニケーションが取れなかったり、思春期特有のイライラがあったり。子供たちがどうストレスと向き合ったらよいのか、保護者たちの関心も強いようだ。
反抗期の娘と
「イライラしたら、いったん、その場を離れて休憩することも重要です」
京都市内で夏休み期間中に開かれた小学生向けの健康教育講座。説明を聞いた子供たちからは「トイレにこもろうかな」「学校の図書室もいいかも」といった声が上がっていた。
講座は、京都市立小教員らでつくる京都市小学校保健研究会と京都女子大学(同市東山区)が主催。小学校教員や養護教諭を目指す大学生らが講師を務め、小学生約60人が参加した。
講座は夏期健康学園と題し「気持ち」や「目」「歯」「薬」の4テーマから選択して受講。アンガーマネジメントを学ぶ「気持ち」が一番関心を集めていた。
担当講師は子供たちに対し「怒りの気持ちを持つことが悪いのではない」と説明。悔しさからくる怒りの感情が、次の挑戦への動機づけにつながったりすることもあり、怒りの感情を抑え込むことだけが正解ではないからだ。「大切なのはコントロールすること」と呼びかけた。
心を落ち着ける方法として、その場を一時的に離れる▽好きなことをイメージする▽アドレナリンが収まるのに必要な時間(6秒)を数える-といった方法を伝えた。
講座を受講した京都市内の小学6年生、藤敦(ふじつる)桜子さん(12)を見守っていた母、菜摘さん(46)は「娘の反抗期とぶつかり、親子でイライラしてしまう。コントロール方法を学びたくて受講を勧めた」と話す。
勉強しようと思っていたときに母から注意を受けた場面など「怒りをぶつけちゃうことがある」と桜子さん。「6秒カウントはすぐ取り入れられそうなのでやってみたい」とほほ笑んだ。
コロナがきっかけ
アンガーマネジメントは1970年代、犯罪者のための矯正プログラムなどとして米国で生まれ、その後は一般的なプログラムとして国際的に普及した。企業研修などで扱われるイメージもあるが、教育分野でもいじめ予防策として導入する学校もあるなど子供にも有効だという。
京都市小学校保健研究会の岡本雅文前会長によると、小学校入学と同時にコロナ禍で例年のような学校生活を送れなかった現4年生などで「感情的になりやすく対人関係でトラブルを起こしやすい児童が増えていることが教員間で肌感覚としてある」という。異学年交流も長らくできず「学校ならではの強みである集団行動の経験が乏しく、さまざまな学年でも今後影響が及ぶ可能性がある」と懸念する。
こうした思いは保護者も同様だ。今回のイベントを企画するにあたり、京都市内の複数の小学校で保護者に子供の健康課題に関するアンケートを実施。気持ちのコントロールを学べる講座を求める保護者が特に多かったという。4年生の長男と参加したある保護者も「きょうだいの学年と比べても学年全体が荒れていて、不登校傾向の子が多い印象だ」と打ち明けた。
イベントを担当した京都女子大の大川尚子教授は、「本来なら小学5年生で心の健康について学ぶ授業があるが、学校現場は忙しく十分に時間を取れていない実情がある」と説明する。
また、アンガーマネジメントについても、「保護者世代では教育を受けたことがない人が多い」とみる。コロナ禍でストレスが多い生活を送る子供のために「正しい知識を身に付けさせ、対応したいと考える保護者は今後も増えるのではないか」と話していた。(木ノ下めぐみ)