元宝塚花組トップ・明日海りおの「今」(後編) 常に生まれ変わりたい

「作品や役ごとに、生まれ変われる俳優でいたい」と話す明日海りおさん(桐原正道撮影)
「作品や役ごとに、生まれ変われる俳優でいたい」と話す明日海りおさん(桐原正道撮影)

元宝塚歌劇団花組トップスターで、女優の明日海りおさん(38)のインタビュー後編。初舞台から20年目の今、これまでの歩みを振り返った上で、現在と未来も語ってもらいました。(聞き手 飯塚友子)

初舞台は「パニック」

《中学時代、宝塚のビデオを見てすっかり心を奪われ、宝塚音楽学校受験を決意。両親の大反対を押し切って中学卒業後に受験し、難関を突破した。2003年に宝塚歌劇団に入団し、初舞台は17歳の月組公演「花の宝塚風土記」「シニョール ドン・ファン」》

初舞台は毎日、必死過ぎて、あまり記憶が鮮明ではないんです。初めてのプロの舞台、宝塚音楽学校の同期(89期)約50人が、初めて衣装を着てギュッと固まっているので、先輩方の邪魔になって、怒られてばかりで…。

化粧も、宝塚のメークに慣れていないので、時間がかかるし下手で、てんやわんや。舞台でライトを当てていただくのも初めてで、「よく前が見えないし、怖い…」と思いました。踊りながら銀橋(舞台前方のエプロンステージ)を渡るだけで「毎日、パニック!」(笑)。

人によっては、「初日の幕が開いた瞬間を、一生忘れない」という方もいらっしゃいますが、私は怒られないよう必死過ぎて、記憶がないんです。

《華やかな容姿に加え、歌唱力や芝居の実力も早くから認められ、若手の下級生時代から抜擢が続いた。若手だけが出演する新人公演でも、「ME AND MY GIRL」「エリザベート」など人気作で相次いで主役を務めた》

(桐原正道撮影)
(桐原正道撮影)

最初の頃は、配役が発表される度に「本当に私でいいんだろうか」と不安になりました。(抜擢が)本当に怖かった。「これで失敗したら、次はない」つもりでしたね。

お客さまに「なぜ(明日海が)キャスティングされるの?」ではなく、「この人の舞台を見たい」と思っていただける存在にならなくてはいけない。同じ役を、別のスターさんとダブルキャストで演じるなら「両方、見てみたい」と思っていただけるよう、〝私が演じる意味〟を突き詰めなければ、と思っていました。本当にいつも、必死だったな…。それから芝居も歌も踊りも好きになっていったんです。

《2014年、「エリザベート」で花組トップスターに就任。トップ就任期間は5年半と、近年では長期で、相手役も蘭乃はな、花乃(かの)まりあ、仙名彩世、華優希と4人が務めた》

「このコンビが一番」と思ってもらいたいですよね。それぞれの娘役さんとも持ち味が違うし、私もトップに就任してから、ペースがどんどん変わった。その時々で、一緒にやるメンバーとどう舞台を進めるのがいいか、試行錯誤しながらでしたから、4人それぞれに、苦労をかけました。

ずっと同じ相手役さんとコンビを組む方もいますけど、ファンの方の中には、変化を楽しんでくださった方もいらっしゃいます。私は4人がいてくれたから、それぞれの良さが出て、それを大事にできたと思います。ですから今回の20周年コンサート、同窓会のように集まれるといいですね。

男役の技術も生きる

《2019年に「A Fairy Tale」「シャルム!」で退団。翌年から芸能生活を再開し、NHK連続テレビ小説「おちょやん」では、目力の強さが評判になった。さらに宝塚時代の代表作「ポーの一族」に2021年、女優として主演》

宝塚の枠から出て今、思うのは、宝塚って素晴らしい世界で、すごく恵まれていたということ。今も大好きですし、安心して自分の芸を突き詰められました。ただ限られた範囲内の様式美や、作り方があり、その枠内で色とりどりにしてある感じですね。

私もすごく守られていた。外の世界に出たら、お芝居にも色々あって、演じる人、監督によっても違うし、映像になったら全然違う。

でも男役で追求した技術は、「ポーの一族」のように舞台の中心に立つときは、生かせる時代になった気がします。自分が方向性を打ち出し、真心を込めて取り組むことが大事で、トップ在任中、培ったもので損になるものはないです。

《歌唱力の高さには定評があるが、退団後、女優としての歌い方に調整するまでは時間がかかった》

大きく声を張ろうと思うと、すごく低い響きになってしまう時期がありました。役として出した声が、自分の声域より高いと、喉を痛めてしまう。ずっと男役だけを17年やってきて、体に染みついてるものと向き合った当初、その否定から入ってしまったんです。

でも、さまざまな経験を経て、「これは今のままでいい」「ここだけ変えてみたらいい」などと、その都度、一番いい道を選んでいけたらいいと分かりました。さらに基礎力がもっと高められたらいいなと思っています。

(桐原正道撮影)
(桐原正道撮影)

一つの世界を作り上げる喜び

今、活動の軸が舞台になっているのは、勝手が分かっていることが大きいですね。今後は、できるだけ多くの作品や役に出合って、俳優を続けてたい。舞台でも映像でも、役を生き、表現するときが一番苦しく、楽しく、生きがいだなって思うんです。

特に舞台では同じ瞬間、お客さまだけでなく、スタッフや共演者ら、関わる人たちと一つの世界を共有し、作り上げていく。その作業が大好きです。

出合う役出合う役、何一つとして同じものはないので、これからも毎回、新たに生まれ変わる気持ちで臨んでいきたいです。

芸歴20周年記念コンサート「ヴォイス・イン・ブルー」は9月15~19日、東京国際フォーラム▷22~24日、梅田芸術劇場。全公演完売だが、東京公演千秋楽の9月19日の13時公演(ゲストは蘭乃はな、花乃まりあ、仙名彩世、華優希)と、大阪公演千秋楽の同24日の13時公演(ゲストは凪七瑠海)は、有料で生配信が行われる。配信チケット購入はこちらから。

(インタビュー前編)9月に芸歴20周年記念コンサート

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