政府が少子化対策に本腰を入れる中、若手社員の出会いの場としての「マッチングアプリ」を福利厚生サービスの一環として導入する企業が広がっている。勤務環境だけでなく、プライベートの充実を後押しすることで、仕事のパフォーマンス向上に期待。勤務先のお墨付きで、若手社員側の心理的ハードルも下がり、婚活につながる好循環が生まれる可能性を秘めている。(赤尾朋紀)
半年で利用者100人超
オフィス家具メーカーの「イトーキ」(東京都中央区)で働く女性(29)は今年4月、社内の福利厚生制度を利用し、マッチングアプリ「Aill goen(エールゴエン)」に登録。すでに5人の男性とオンラインで交流し、実際に2人と会ったという。
「正直、パートナー探しの優先順位は低く、自分の趣味を優先することが多かった」という女性。「会社が福利厚生でマッチングアプリを導入したことに安心感を覚え、利用するハードルが下がった」と話す。
イトーキによると、福利厚生でのマッチングアプリ導入に難色を示す声もあったが、令和3年5月の導入から半年間で利用者が100人を超えるなどの反響があった。今年6月まではアプリ利用料の一部を社員が負担していたが、現在は同社が全額負担しているという。
デートに誘うタイミングも指導
エールゴエンは登録者の中から進展が期待できそうな条件の人を人工知能(AI)が探し出し、紹介するのが特徴。当人同士のチャットでの会話から相手側の好感度をAIが可視化し、デートに誘うタイミングなどもアドバイスする。
導入できるのは、上場会社やそのグループ会社、厚生労働相認定の「子育てサポート企業」など、福利厚生制度が整った企業に限られる。導入企業側では、利用している社員を特定できない仕組みのため、プライバシーも守られる。
利用中の女性は「マッチング相手がAIがおすすめした人に限られ、探す手間がない」とメリットを指摘。「お互いの意思を尊重し、サポート・応援し合える相手に出会えれば」と今後への期待を語る。
イトーキ人事企画室の一階(いっかい)裕美子室長は「働く時間だけでなく、プライベートもウェルビーイング(心身の健康や幸福)することが大切。社員がよりパフォーマンスを上げてもらえるようなサービスを展開していきたい」と力を込めた。
結婚したくても…
出生数が過去最低を更新する一方で、婚姻数も令和2年に約52万5千組と過去最低を記録。国立社会保障・人口問題研究所の出生動向基本調査(3年6月時点)では、18~34歳の独身男女の8割以上が「いずれ結婚するつもり」と回答しながらも、出会いのなさを結婚しない理由に挙げる人が目立っている。
こうした中で、出会いの場としてのマッチングアプリに注目が集まる。
登録者約2千万人の「ペアーズ」を運営する「エウレカ」(東京都港区)が今年2月、入社10年目以内の男女千人に行った調査では、恋人との出会いのきっかけは「職場や学校などの生活圏」が28%と最多だったが、「マッチングアプリ」(23・9%)は2番目に多かったという。
ペアーズは4月、約1万6千の企業・団体が契約する福利厚生の外部委託サービスのメニューに加わった。エウレカの小野澤翔PRマネジャーは「日本は恋愛消極層が多く、職場などでの自然な出会いも減少している。福利厚生制度を通して、出会いの機会を提供することで、導入企業の社員のプライベートを充実させるサポートをしていきたい」と強調した。