主張

食料安保の抜本的強化を 農業基本法見直し

農林水産省が、農政の指針となる食料・農業・農村基本法の改正に向けた中間取りまとめを公表した。食料が国民に行き渡らなくなる不測の事態に備えて、食料安全保障に関わる体制整備の必要性を盛り込んだことなどが特徴である。

頻発する異常気象に伴う凶作だけでなく、新型コロナウイルス禍のような感染症が拡大すれば食料の物流が途絶する懸念がある。穀物や肥料の供給不足や価格高騰を招いたロシアのウクライナ侵略など、地政学的リスクも高まっている。

食料供給を巡る状況は、現行の基本法を制定した平成11年当時から大きく変化した。その見直しに際して、食料安保を抜本的に強化すべきは当然である。

政府の経済財政運営指針「骨太の方針」の原案にもこの考え方が示されており、農水省は来年の通常国会への基本法改正案提出を目指す。基本法を具体化する関連法の検討も併せて進め、危機への備えを万全にしたい。

有識者の基本法検証部会で改正について検討してきた。輸入途絶などの事態が生じた際には「不測時であることの宣言」を行い、政府全体で対応するよう求めた。

不測時に国民が最低限必要な食料を確保するためには、備蓄放出や買い占め防止から増産・転作指示、価格・流通規制、食料配給まで、状況に応じた措置がいる。

こうした対応は農水省の緊急事態食料安保指針で整理されているが、指針に基づく具体的措置を講じる法的根拠がない。国民生活安定緊急措置法などの個別法もあるが、これらは食料安保を想定して制定されたものではない。

その点で中間取りまとめが「実際に不測の事態に備える体制が十分に講じられているとはいえない状態」と指摘したのは妥当だ。

制約の伴う措置を農家などが受け入れられるよう負担を減じる財政的措置の必要性も検討するよう求めた。その点を含めて不測時の対応を法的に明確化したい。

食料安保は平時においても重要だ。国内生産の強化や安定的な輸入先確保などを進め、国民全てに十分な食料が行き渡る状態を保つ必要がある。中間取りまとめは食料自給率だけでなく、さまざまな数値目標を定めるよう求めた。輸入依存度の高い肥料や飼料の調達などでも適切な目標を設け、効果的に活用すべきである。


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