主張

フルタイムに適用広げよ  厚生年金の改革

5年に1度の年金制度改正に向けた議論が、厚生労働省の年金部会で本格化している。

働き方が多様化する中で年金制度が時代に合ったものになっているかを点検し、本来の目的を果たしていくための改革を進める必要がある。

今回の制度改革の大きな課題の一つが厚生年金の適用拡大だ。

平成24年の年金法改正以降、規模の大きな企業では、週20時間以上働くパート労働者への厚生年金適用が始まった。来年10月からはより規模の小さな企業などにも適用対象を広げる。

だが、個人事業所についてはパート労働者どころか、フルタイムで働く人への厚生年金適用さえ行き渡っていない。厚生年金が適用されないフルタイム労働者は、いまだに100万人超もいる。

個人事業所は規模や業種によって厚生年金が適用されるところと、されないところがある。適用されているのは町工場や商店、運送、クリニックなど「法定17業種」と呼ばれる事業所で常に5人以上の人を雇うところだ。

一方、飲食や宿泊業、理髪店・美容院などの個人事業所は「非適用業種」と呼ばれ、常時5人以上を働かせていても、一般に厚生年金は適用されない。フルタイムで働く人も国民年金に加入する。

雇用期間が比較的短い業種では適用事務が煩雑になることが背景にあったとされる。だが現場の事務はこの間に格段に進歩した。

今や大企業ではパートタイム労働者にも厚生年金が適用されるのに、個人事業所ではフルタイムでも適用されないところがあるのは公平性に欠ける。

もちろん、個人事業所が厚生年金の適用対象になれば、事業主は保険料を本人と折半で負わねばならず、新たな負担が生じる。

しかし、同じ業種でも法人には厚生年金が適用され、個人事業所が非適用のままでは、人材獲得は不利になるばかりだ。賃上げが求められる中では、社会保険の適用も、働く人の待遇を改善する手段の一つである。

フルタイムで雇われて働いている人には、それにふさわしい年金制度が適用され、老後の保障が得られることが必要だ。

準備期間をしっかり設けて、業界の理解を得ながら、個人事業所の適用業種の拡大を前向きに検討してほしい。

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