「この歳で、この病気になって、人生で一番体を慈(いつく)しんだ8カ月。自分の体がこんなにもいとおしいと思った時間はない」。直木賞作家、西加奈子さん(46)が初のノンフィクション『くもをさがす』(河出書房新社)でつづるのは、自身がカナダで告知された乳がんの手術と治療の日々。新型コロナウイルス禍の中、異国で病に襲われながら自分を見つめ直す心の記録は、20万部を超えるベストセラーとなっている。
書くのが救い
語学留学のために、西さんが夫と子供、愛猫とともにカナダのバンクーバーに降り立ったのは2019年12月。翌年8月、右胸に約1センチのしこりが見つかり、検査の末、乳がんと宣告された。好きなお酒をやめ、運動も続け、体調の良さを感じていた矢先のこと。以来、むき出しの思いをつづった日記と並行して、客観的な視点を加えたノンフィクションを書き始めた。