“夢心地”になる新しいメルセデス・ベンツの高級車 新型EQS 450 4MATIC SUV試乗記

EV専用アーキテクチャーならではのパッケージング

EQS SUVには圧倒されっぱなしで、圧倒されっぱなしであることに、筆者は心地よい興奮を感じた。総じてメルセデス・ベンツへの畏敬の念を新たにした。こういうものをいち早くつくって市場に提供してみせるのだから、やっぱりスゴい、と。

まずもって圧倒されるのは、そのサイズだ。プラットフォームその他、機械部分の多くを共有するセダンのEQSより100mm短いとはいえ、全長は5130mmと5.0mを超える。全幅は2.0m超の2035mmもあり、1725mmの全高はEQSセダンより200mmも高い。ニッポン人の平均身長よりちょっぴり上まわっている。駐車場にはご用心である。

とはいえ、メルセデスの内燃機関のSUVの旗艦、メルセデス・マイバッハ「GLS」より、80mm短く、5mm幅広いだけで、ルーフレールがないこともあって115mm低い。象の仲間のなかでは小柄な部類で、小柄なのにホイールベースはEQS セダンとおなじ3210mmもある。GLSより75mmも長いのである。すなわち、それだけ広い室内が確保できるということで、だからこそ3列シートが標準装備できるのである。

しかも3列目のシートのクッションもふかふかで、横方向が限られているので親密な関係のほうがよいとは思うけれど、大人ふたりが座る空間が確保されている。エンジン、トランスミッションの搭載を前提にしない、EV専用アーキテクチャーならではのパッケージングなのだ。

巨体なのに外観の威圧感がさほどでもないのは、メルセデスEQ一族共通の、ツルリンとした、ピクサー製作のアニメ「ウォーリー」にも似た雰囲気のフロント・グリルによるものだろう。試乗車はオプションのAMGラインが選ばれていて、フロント・バンパーの冷却ダクトが強調されたダイナミックなデザインになっていた。ホイールもAMGの21インチで、戦闘的というより前衛的なかたちだけど、それでも全体にやさしげに見える。これは空力を意識したボディ全体が圧倒的にスリーク、スベスベで滑らかだからだ。

続いて圧倒されるのは、そのインテリアである。じつにゴージャスで、ビューティフルである。ご覧ください。素晴らしい。素晴らしすぎる。

試乗車は日本市場で主力となるであろう、システム最高出力360psのEQS 450 4MATIC SUVで、450ではオプションの、上級グレードの580では標準のMBUXハイパースクリーンを装着していた。EQSセダンで登場しているデジタル文明を象徴するようなデザインで、3つの巨大なディスプレイを1枚のガラスで覆うことで、ダッシュボード全体がディスプレイになっている、ように見える。ウォーリーみたいなフロントの外観から受けるイメージが内部でも繰り返されることにもなっていて、つまりインパクトがより深まっている。

細かい話ながら、デジタルのメーターの針が「スター・ウォーズ」のジェダイの騎士が使うライトセーバーみたいに発光するところもナイスである。メーターのグラフィックはデジタルゆえ、ほかにも選択肢があって切り替えられる。

それと、室内の一部に採用されている、スリーポインテッドスターのマーク、ニンジャが使うマキビシみたいな星が散りばめられた象嵌細工のウッドパネルもステキだ。ラグジュアリーブランドのモノグラム柄のようでもあり、ゴージャスでビューティフルなムードを高めることに寄与している。

圧倒的な静粛性

でもって、走りはじめて圧倒されるのは、圧倒的に静かな点だ。

電気自動車(EV)だから当たり前。というのは当たらない。EVはパワートレインが静かなだけに、防音対策の徹底が必要とされる。イタチごっこだともいわれる、手間暇のかかる作業を、コスト度外視、ということはないにせよ、徹底しているのである。

おそらく。こんなことができるのは、もちろんメルセデス・ベンツの高い技術力とブランド力による。EQS SUVがメルセデスEQの電気SUVの旗艦、であるからこその、おごそかだと感じるほどの静かさなのだ。

乗り心地は、21インチという巨大なホイールに、275/45という分厚くて薄いタイヤを組み合わせているのを考えると、驚異的に快適である。これにはメルセデス・ベンツのAIRMATICという電子制御のエアサスペンションと連続可変ダンピングの組み合わせが効果を発揮しているものと思われる。エアサスでふわふわなんである。

とりわけ、ブレーキをゆるめてフワリと走り出したときのスムーズネス、静粛性、夢心地感ときたら、まさに夢心地で、あ。そういえば先代のSクラスあたりから採用されはじめた、ヘッドレストにつけるフワフワのクッションが、高級ホテルのフワフワの枕を思わせて、だから筆者は夢心地、なんて表現を使ったのだろう。ファンタスティック! である。

やや重めのアクセル・ペダルを踏み込むと、重量感を伴いつつも、EQS 450 4MATIC SUVはおごそかに加速する。車重は2900kgもある。巨大なエネルギーの塊、といった感覚で、踏めば、くめども尽きぬ泉のようにトルクが湧き出してくる。システム最大トルクは、前後モーター合わせて800Nmにもおよぶ。

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