ダム決壊で「逃げ場がない」 露占領地のウクライナ住民に危機

【キーウ(キエフ)=桑村朋】ウクライナ南部ヘルソン州のカホフカ水力発電所で起きたダム決壊による洪水で、ドニエプル川東・南側のロシア占領地の住民に危機が迫っている。ロシアが救助活動や食料提供を十分行っていない可能性がある上、「避難」を口実に住民がロシア国内に移送される恐れが出ている。

安全な飲用水少なく、停電も

「ロシア人は屋根で助けを待つ人を救助せず、水や食料もろくに渡していない」

州都ヘルソン市でボランティアを行うNGO職員、オクサナ・ポモヒイ氏(59)=同市在住=は露占領地の住民から得たという情報を明かした。病院も収容能力の限界が近いという。

ドニエプル川周辺では水位が5メートル超となった場所もあり、安全な飲用水が少なく停電なども発生している。救助が難航しているのはウクライナ統治下の地域でも同じだ。

しかし露占領地では、ロシアのパスポート(旅券)がなければ街を離れることが許されない。露側が街を封鎖し、救助用ボートを撤去したとの情報もあり、ポモヒイ氏は「逃げ場がない状態だ」と現地の友人を心配する。

露軍、避難中も攻撃

ボランティアを装った私服のウクライナ軍人が露占領地の一部住民を退避させたというが、「露軍は避難中も関係なく攻撃し、複数人が負傷した」と同氏。赤十字など国際組織も動けないという。

ロシアが占領する地域で9人の死亡が確認されたオレシキ市のリシチュク市長は地元メディアに、「市内は90%水没した。完全に水没した自治体もある」と被害が広がる恐れを示唆。水位が低下する中、遺体が水面に浮上しているとの情報も寄せられているという。

ウクライナのゼレンスキー大統領は9日に発表した声明で、避難中も攻撃を加えるロシアに対し、「世界中のどのテロリストもやったことがない悪行」だと批判。「占領者たちは完全に人々を見捨てた。地球上で最大の災害であり、野蛮人だ」と非難した。

住民を露国内へ移送も

国連のブラウン人道調整官は8日、ウクライナのクレバ外相との会談で、支援要員を露占領地に派遣する考えを示した。ただ、露側から「安全の保証は確約されていない」とも述べ、困難な状況を示唆した。

一方、露メディアによると、露非常事態省の幹部は8日、占領地の避難所が収容者の上限を超えれば、被災住民を別の地域に移動させる可能性に言及。避難を名目に住民らがロシア国内に移送される恐れも出てきた。ヘルソン州でロシアが一方的に任命した「州知事代理」は10日、交流サイト(SNS)にこれまでに約6千人が避難したと公表。すでに一部が州外へ移送された可能性もある。

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