失意の底から立ち直った背中は、多くのファンの胸を打った。快挙に拍手を送りたい。
テニスの四大大会、全仏オープンで加藤未唯がティム・プッツ(ドイツ)と組んだ混合ダブルスを制した。
加藤は4日の女子ダブルス3回戦で、失格処分を受けていた。プレーの合間に相手コートに送った打球がボールガールに当たり、危険行為とみなされたからだ。
多くのメディアが疑問視した処分に対し、加藤は一時、「もう帰ろうかな」と思ったという。それでも勝負を捨てず、「失格は不運だったが、前を向いて全力を尽くせた」と振り返った。コートに立ち続けた姿は、世界を目指す子供たちに勇気を届けたはずだ。
日本勢では、柴原瑛菜も前回大会の混合ダブルスで優勝している。日本テニス協会は平成22年から、五輪でのメダル獲得が見込める女子ダブルスを重点的に強化してきた。当時10代だった加藤らの地力は、長期的な強化策の中で培われたものだ。
チームへの献身は、日本選手の特性であり強みとされる。ダブルスでの好成績は卓球やバドミントンにも見られ、今回の優勝も戦略の勝利と言っていい。
しかし、加藤は失格に加え、賞金と世界ランキングに反映されるポイントを没収された。処分は不当であり、撤回されるべきだ。
主審が最初に与えた警告は、相手の抗議で覆った。相手側のスペイン選手は「何が起きたかを説明しただけ」と述べたが、抗議は執拗(しつよう)だった。映像を見る限り、相手ペアは加藤の球がボールガールを直撃する経緯を見ていない。真相究明ではなく、相手の失格を狙う意図がうかがえ、悪質である。
大会主催者側が、映像の再確認を求めた加藤らの訴えを退け、失格とした対応も理解に苦しむ。
テニスのプロ選手協会は「不当な判定だ」と声明を出し、女子の元トップ選手、マルチナ・ナブラチロワ氏は相手ペアの行為を「恥ずべきだ」と非難した。失格の翌日、混合ダブルスで出場した加藤を待っていたのは、観衆の温かい拍手だった。何が正しいか、ファンは分かっている。
主催者側は処分の誤りを認めるだけでなく、相手ペアへのペナルティーも検討してはどうか。フェアプレーに程遠い行為の放置は、スポーツ界のためにならない。