米共和党のトランプ前大統領は機密文書問題での起訴について、自身を民主党のバイデン政権による迫害の「被害者」だと喧伝(けんでん)している。こうした主張は、共和党の支持基盤である保守層に根強い「リベラル勢力への敵意」と親和性が高い。起訴はトランプ支持者をいっそう結束させ、2024年大統領選に向けた共和党の候補者指名争いでトランプ氏の「1強」状態を加速させる可能性がある。
8日夕に起訴の一報が流れた直後から、トランプ氏が立ち上げた交流サイト(SNS)「トゥルース・ソーシャル」では、「ディープステート(闇の政府)を倒せ」「トランプのために祈る」などの投稿があふれた。南部フロリダ州にあるトランプ氏の邸宅マールアラーゴ周辺には、熱烈な支持者が集まった。
起訴はトランプ氏の地元フロリダ州の市民から選ばれた大陪審が決定した。だが、トランプ支持者の多くには、それすらも政権側からの「攻撃」と映る。トランプ政治を特徴づける「エスタブリッシュメント(支配層)との戦い」というナラティブ(物語)が強く、支持者はその枠組みで物事をとらえるためだ。
共和党では昨年11月の中間選挙後、自党の議席が伸び悩んだのは20年大統領選での敗北を認めないトランプ氏が原因だとの声が高まった。だが、トランプ氏が今年3月末、ポルノ女優への口止め料支払いを巡って起訴されると批判は鳴りを潜め、トランプ氏の支持率が急伸した。
調査機関ユーガブが今月初めに行った世論調査では、機密文書問題でトランプ氏の起訴を支持するとした回答が、民主党支持層で83%だったのに対し、共和党支持層では16%にとどまった。こうした共和党支持層の心情を、指名レースに参戦している他の候補者も読み取っている。
最大のライバルと目されるフロリダ州のデサンティス知事は8日、起訴は「法執行機関の武器化」だとツイッターで非難。投資家のビベック・ラマスワミー氏は「当選したらトランプ氏を恩赦する」と書き込んだ。
前出のユーガブ調査では機密文書持ち出しを「非常に深刻」「ある程度は深刻」な問題だと答えた人が全体の72%、共和党支持層でも63%にのぼった。今回の起訴がトランプ氏の足かせになる可能性もある。
ただ、バイデン大統領も機密文書を自宅などに不正に保管していたことが判明し、捜査対象となっている。トランプ氏が自分だけ起訴されたのは不当だと訴え、その主張が無党派層にも浸透すれば民主党に打撃となる。(ワシントン 大内清)