会話型AI「ChatGPT」の開発で知られるOpenAIのCEOのサム・アルトマンが、世界の主要都市を巡回する“ワールドツアー”に取り組んでいる。その狙いはユーザーの声に耳を傾けると同時に、バランスのとれた規制を求めることにあるようだ。
このほどOpenAIの最高経営責任者(CEO)のサム・アルトマンがロンドンを訪れたとき、市内では彼の訪問に伴う熱気の一端を感じられた。5月24日の午後にユニバーシティー・カレッジ・ロンドンでアルトマンが講演をするとのことで、会場をぐるりと囲むように長蛇の列ができたのである。
そこには熱心な表情の学生や会話型AI「ChatGPT」のファンなど数百人が集まり、アルトマンの“ワールドツアー”の英国講演を聴こうと待ちわびていた。アルトマンは今回のワールドツアーで17都市を巡ると見られている。すでに今週はパリとワルシャワに滞在しており、先週はラゴス、そして次はミュンヘンだ。
一方で行列の背後では、人工知能(AI)の進歩が速すぎるとして大声で不安を叫ぶためにやってきた人々の声も、少人数だが聞こえていた。「サム・アルトマンはトランスヒューマニスト的なユートピアのようなものの希望にかけて、人類を危険に晒すつもりだ」と、ある抗議活動の参加者はメガホンに向かって叫んでいた。
別の抗議活動に参加していたベンという人物も、今後のキャリアに影響が出るかもしれないと、名字を伏せて不安を口にした。「人類の存続を脅かす可能性があるようなAIモデルが今後開発されないか、わたしたちは特に懸念しています」
楽観的だったアルトマンの懸念
講演会場は1,000人近くの聴衆で満員になったが、それでもアルトマンは平然としていた。シャープな青のスーツに緑の模様入りのソックスという出で立ちで、常に簡潔にきびきびと話していたのだ。そしてAIによって経済がどのように再活性化される可能性があるかについて、自身の考えを説明するアルトマンの口調は楽観的なものだった。
「過去数十年間で生産性は思うように上がってきませんでした。この技術によって生産性が上がるのではないかと、わたしはわくわくしています」と、アルトマンは言う。一方で、アルトマンは会場外での抗議活動については触れなかったものの、生成AI(Generative AI)がデマの拡散に使われる可能性について懸念があることを認めている。
「人間はもとからデマをつくるのが上手です。それにGPTモデルが加わると、さらにデマをつくりやすくなるのかもしれません。でも、わたしが恐れているのはその点ではありません」と、アルトマンは語る。「(AIは)何が違うかというと、ひとつにはAIシステムはインタラクティブであり、パーソナライズ可能であり、説得力があるということなのです」
アルトマンによるとOpenAIは、ChatGPTがデマの拡散への協力を拒むようにする方法の構築、そしてモニタリングシステムの作成を計画している。しかし、OpenAIがオープンソースモデルを一般公開すれば、こうした悪影響を緩和することが難しくなるだろうという。
実際にOpenAIは数週間前、オープンソースモデルを一般公開する計画であると発表している。「OpenAIでは、わたしたちのシステムに用途の制約を課す技術を導入しています。しかし、オープンソースになれば、同じかたちで制約を課すことができなくなってしまいます」
いかにAIの潜在的な危害から社会を守るのか
このようにアルトマンは警鐘を鳴らしながらも、AIの技術がまだ黎明期にあるうちは過度に規制しないことが重要であると指摘している。
一方で欧州議会では、“AI法”と呼ばれる法案の審議が進められている。これは企業がどのようなかたちならAIを開発できるかを定める新たな規則として構想されている。またコンプライアンスの監視のために、AIを監督する部署が設置される可能性もある。
これに対して英国は、AIを専門に監督する機関を設立するのではなく、AIの監督を複数の規制当局に分担させる形式を選んだ。具体的には、人権、公衆衛生および安全、競争を監視する当局などだ。
世界各国で社会をAIの潜在的な危害から守りながらも、イノベーションを阻害することがないようなAIのルールをどのようにつくるべきか、政策立案者たちの間では議論が進められている。その議論に関してアルトマンは、「これについては適切なバランスを見いだすことが重要だと思います」と指摘したうえで、次のように続ける。