来春卒業する大学生らの就職活動戦線が佳境を迎えている。新型コロナウイルス禍からの経済状況の好転や人手不足もあり、企業の採用意欲は旺盛。一方で就活のリモート化が進んだ影響で企業と学生が直接意思疎通する機会が減り、採用時の「ミスマッチ」増加の懸念が高まっている。企業側は職種別採用を充実させるなどし、早期離職の食い止めに力を入れている。
「〝配属ガチャ〟がとても気になる。自分の適性や希望と違う部署に配属されれば、仕事のモチベーションが下がってしまいそう」
就活中の関西大4年の男子学生(21)はこう不安を打ち明ける。配属ガチャは、入社後の配属先が見通せないことをカプセル玩具販売機「ガチャガチャ」に例えた言葉だ。
リクルートマネジメントソリューションズが昨年度卒として就活を行った学生ら約1300人を対象に行った調査によると、内定承諾の理由(複数選択)として最も多かったのは「自分のやりたい仕事(職種)ができる」(15・6%)だった。毎年同様の調査を行っており、「育成に力を入れている」や「入社後のキャリアをイメージできる」の選択率も上昇傾向にある。一方で、これまで多かった「社員や社風が魅力的」「制度や待遇」「業績が安定」の選択率は年々低下しているという。
関西大の男子学生は内定を得た企業が本当に自分に適しているかどうか分からないとし、将来の転職の可能性を考慮したうえで「転職時に自分の市場価値が高められている企業かどうかも大事」と言い切る。
コストをかけて採用した学生に早期に離職されてしまえば企業の損失は大きい。コロナ禍で会社説明会や面接をリモートで行う企業が増えたが、エントリーした学生を対象に社員による仕事紹介の動画がみられるようにしたり、社員と個別に面会できる機会を設けたりする動きもみられる。
日本生命保険の人事担当者は「面接が進む過程で、徐々に在籍年数の長い従業員と直接話してもらう。働き方の具体的なイメージを持ってもらえれば、ミスマッチを防げる」とする。積水ハウスも社員との個別面談を実施している。
一方、三井住友銀行は5年前に新設したコース別採用枠を今年度から拡充。テクノロジーの進化や規制緩和で銀行に求められる専門性も高度化しているとし、「入社してすぐに希望する業務に携わったり、早期に専門性を高めたりしたいという学生が増えており、従来の総合職一括採用では適さないケースも出ている」(担当者)という。
日本総合研究所関西経済研究センターの藤山光雄副所長はミスマッチ防止に向け、「企業側はインターンシップや現場社員との交流を通じ、学生になるべく仕事や職場の実態に近い情報を発信することが重要。学生側も、自分に合う仕事を客観的に判断できるよう、しっかりと自己分析すべきだ」と指摘している。(井上浩平)