人口減に直面する京都市は、古都の景観保全のために守ってきた建物の高さ規制の緩和に乗り出した。場所や条件によってはタワーマンションの建設も可能になる。市の人口減少幅は全国の市区町村で2年連続のワースト1を記録。ホテルの建設ラッシュに伴う住宅価格の高騰で、働き盛りの世代の周辺自治体への流出も続く。住宅やオフィスを増やせるように規制を緩和することで子育て世帯の定住や企業誘致につなげ、人口や税収の増加を狙う。
総務省によると、京都市の令和4年1月時点の人口は約138・8万人。3年1月時点は約140万人で、1年間で約1万2千人減った計算になり、減少幅は全国の市区町村で2年連続ワースト1となった。
ただ京都特有の事情もある。複数の大学や研究機関を抱える京都市では、留学生や外国人研究者らが多く暮らす。特にコロナ禍での水際対策の強化で、留学生らが来日を見送るなどしたケースが相次いだといい、市はこれが人口減に直結したとみている。
一方、構造的な問題も無視できない。コロナ流行前は訪日観光客の増加に伴い市内各地でホテルの建設ラッシュとなり、用地不足からマンション価格が高騰。子育て世帯を中心とした世代が、市内と比べて割安感のある京都府南部や隣県の大津市などへ流出する事態が常態化しているという。
もっとも、日本全体で人口減が進んでおり、門川大作市長は「人口減少は(数ではなく)『率』でとらえるのが正確だ」との認識を示す。市によると、人口減少率は全国の自治体で中位に位置しているという。
タワマンも可能に
とはいえ京都市の危機感は根強い。働き手の定住と企業の誘致には「変化」が不可避と判断した。
その象徴といえるのが高さ規制の見直しだ。市は平成19年、国内でも例を見ない厳しさといわれる「新景観政策」を導入。市街地のほぼ全域で建物の高さに上限を設定し、地域によって10~31メートルの6段階で規制した。
市は今年4月から、こうした規制を大きく緩和。例えば大津市に近い市営地下鉄山科駅周辺では、1階に店舗などを置くマンションの場合、31メートルや20メートルの高さ規制を撤廃した。要件を満たせば20階以上のタワーマンションの建設も理論上可能となる。向日市といった市境に近いエリアでも規制をなくし、人口流出の食い止めを狙う。
JR京都駅の南部や任天堂(京都市南区)周辺では、高さ規制の緩和とともに、敷地面積に対する延べ床面積の割合を示す「容積率」の許容値を最大千%に拡大。さらに補助金制度を創設して企業誘致を促し、固定資産税などの税収増も図りたい考えだ。なお、多数の文化財が集積するJR京都駅北側などでは規制は変わらない。
10年後を見据え
京都市の取り組みについて都市計画に詳しい東京都立大の饗庭(あいば)伸教授は「細部まで練られた政策。将来的な街づくりの構想が具体的に書かれている」と評価する。饗庭氏は、人の定住には企業誘致が重要になると指摘。住宅価格の高騰についても、規制緩和で供給量が増えれば「いずれ適正な金額に近づく」と推測した。
ただ規制緩和が始まっても、すぐにマンションの建設や建て替えが始まるわけではない。「街づくりは10年後を見据えるもの。すぐに結果が出なくともじっくり進めなければならない」(饗庭氏)。
日本全体に視野を広げれば東京一極集中が再加速し、若い世代が東京に流出する傾向は依然強い。それだけに饗庭氏は「人口減を食い止めようとする京都市の施策がうまくいけば、全国の自治体への参考例になるだろう」と話した。(鈴木文也)