NHKの杜撰(ずさん)な予算策定の実態が明らかになった。衛星放送(BS)番組のインターネット同時配信という同局の業務とは認められていない関連費用約9億円を今年度予算案に盛り込み、国会で承認されてしまった。
NHKは予算執行前に是正措置を講じた。そのまま執行していれば、放送法に抵触していた疑いが濃厚だ。同局は「一連の内部手続きが不適切だった」と謝罪しているが、こうした組織統治(ガバナンス)の不全は、不祥事の度に問われてきたことである。ガバナンスなき組織に多額の受信料は任せられない。猛省を促したい。
問題となったのは、ネット同時配信サービス「NHKプラス」にBS番組を加えるための設備投資などの予算だ。
総務相の認可を受けたNHKのネット活用業務の実施基準で、地上波番組のネット配信は認められているが、BS番組は含まれていない。ところが前田晃伸前会長時代の予算策定で、BS番組配信に向けた設備調達などの予算を一部役員の稟議(りんぎ)だけで決めていた。7日の総務省の有識者会議の会合でNHK担当理事は、一部役員が昨年10月、当時の前田会長からBS番組同時配信の了承を得たと説明した。
その前田氏はBS放送を1波削減する改革に伴い、「サービスの質低下を招かないために先を見据えて準備するのは当然だ」と述べたことが報じられている。
それならばNHKのネット配信や受信料徴収をどのように実施するかを明確に説明し、視聴者の理解を得て、適正な手続きを経るのが筋である。勝手な予算計上は言語道断だ。
この問題は4月上旬にNHK内部で発覚してから公表まで約2カ月かかった。5月に報告を受けた経営委員会は前会長時代の執行部の説明が不十分だったとして「極めて遺憾」としたが、予算案を認めた責任は免れない。経営委では現会長側とガバナンス強化を互いに求める応酬もあったというが、どちらの責任も重大である。
ネット時代の公共放送や受信料制度が議論される中で、NHKは業務、受信料、ガバナンスの一体改革が求められてきたことを忘れてはならない。受信料収入にあぐらをかき、コスト意識やモラルを欠く体質を引きずるなら、公共放送の役割は果たせない。