キーコーヒー ファンコミュニティとめざす新しい世界

共通の趣味を持つ人や特定のブランドを好む人が集まり、情報や楽しみを共有するインターネット上の空間「ファンコミュニティ」。消費者と双方向のコミュニケーションを試みる場として運営する企業も増えている。レギュラーコーヒー製造販売の「キーコーヒー」も、その一つだ。ファンコミュニティ構築・運営大手のクオンの協力で、令和3年から「Coffee Fan Club」を運営している。キーコーヒーといえば、創業100年を誇り、日本のコーヒー文化の醸成に貢献してきた、コーヒーのリーディングカンパニーだ。コミュニティにはよほどのキーコーヒー通が集うのかと思いきや、「Coffee Fan Club」はコーヒー好きなら誰でも気軽に参加でき、約4万3千人(令和5年5月現在)がゆったりとコーヒー愛を語り合う場に成長している。同社がファンコミュニティと描く未来とは―。

「Coffee Fan Club」を運営するキーコーヒーの田中正登志マーケティング本部長、手島ほたる主任、柴田裕社長(左から)。「一緒にコーヒーを楽しみましょう」と呼びかける
「Coffee Fan Club」を運営するキーコーヒーの田中正登志マーケティング本部長、手島ほたる主任、柴田裕社長(左から)。「一緒にコーヒーを楽しみましょう」と呼びかける

日本のコーヒー文化 育てた100年

青い背景にカギのマークを、街なかの喫茶店で見たことがある人も多いだろう。日本でコーヒーを飲む人がまだそれほど多くなかった大正9(1920)年に横浜で創業した同社は、喫茶店の開業支援や、簡易抽出型コーヒーなど家庭向け商品の販売を通じ、コーヒー文化の広がりを支えてきた企業だ。「カギのマークには、新しい文化を開くカギという意味が込められている。コーヒーを、誰でも簡単においしく飲めるようにしたい。これをめざした100年だった」。同社の柴田裕社長はこう振り返る。

コーヒーの専門知識や正しい抽出方法を知ってもらおうと昭和30(1955)年、いち早くコーヒー教室を開始。当初は喫茶店開業をめざす人を対象としていたが、やがて純喫茶ブームの到来とともに料理学校や百貨店、スーパーなどのイベントでも開催するようになった。平成20(2008)年からは「コーヒーセミナー」として一般客向けのプログラムを整え、現在も東京本社で毎月10回程度開催している。受講者は、のべ37万人に上る。各種SNSや情報ページ「ドリップしよう。」では、コーヒーの淹れ方はもちろん、豆の保存方法などためになる情報や、コーヒーのアレンジレシピなども紹介している。

家庭で簡単においしいコーヒーを楽しめる抽出器具や商品開発にも取り組んできた。カップ1杯分を簡単に抽出できる簡易抽出型コーヒーの先駆け「ドリップ オンシリーズ」(平成9年発売)は、販売数累計22億杯に上る人気商品だ。

昭和35年ごろのコーヒー教室の様子(キーコーヒー提供)
昭和35年ごろのコーヒー教室の様子(キーコーヒー提供)

楽しく興味深く

100年にわたり、コーヒー好きを全国に広げてきたキーコーヒーが運営するファンコミュニティというと、よほど熱心なファンでなければ肩身の狭い思いをしそうだが、「Coffee Fan Club」はそうではない。特定のブランドにこだわりを持たない人も気兼ねなく発言でき、同社商品についての情報交換よりもむしろ、コーヒーそのものの魅力を語るやり取りでにぎわっている。

コミュニティ運営を統括する同社執行役員の田中正登志マーケティング本部長は「あえて間口を広く、いろんな方とコミュニケーションする場にしたかった。実直にコーヒー、品質、お客さまに向き合ってきたという自信もある。わたしたちのことをもっと知っていただき、コーヒーに関して単に飲むだけではなく、経験や楽しみを共有し、ともに向上していきたい」と語る。

「Coffee Fan Club」では、参加者がコーヒーのお供やお気に入りの飲み方を日々、自由に投稿している。同社からは「コーヒー勉強会」と題したコーナーを設け、ドリップコーヒーやアイスコーヒーの淹れ方など豆知識とともに、同社がインドネシア・スラウェシ島トラジャ地方の戦後復興に貢献しながら復活させた希少なコーヒー「トアルコ トラジャ」についても発信している。

コーヒーに関するエピソード投稿や商品モニターの募集キャンペーンもたびたび開催している。エピソード募集企画は毎回盛況で、コーヒーを初めて飲んだ日を振り返ったり、家族や友人など大切な人と飲んだ思い出をつづったり、500件近い投稿が集まることもある。運営担当のカスタマーリレーションチームの手島ほたる主任は「味わいの表現も、苦味や酸味以外のびっくりするほどユニークなものが出てくる。お客さまが思っていることをこんなにも文字で表現してくれる場はこれまでなかったので、うまく活用していきたい」と話す。

コーヒーにまつわるエピソードを語る投稿
コーヒーにまつわるエピソードを語る投稿

「キーコーヒーの次の100年は、『楽しく』、『興味深く』、コーヒーを飲んでもらうことをめざしている」と、柴田社長。今年からコミュニティ内に特別な「トアルコ トラジャルーム」を設け、トアルコ トラジャの魅力や開発ストーリーを、クイズなどを交えながら発信している。参加者のなかから開発ミーティングなどにも参加できる「トラジャアンバサダー」を育成する予定で、すでに「トアルコ トラジャルーム」には3万5千人が参加している(令和5年5月現在)。柴田社長は「地球温暖化など気候変動はコーヒー作りにも大きな影響を与えている。持続可能なコーヒー作りができるよう、品種改良や生産地の経済活動支援などに引き続き取り組んでいきたい。作り手の思いやストーリーを消費者にも知ってもらい、一緒においしいコーヒーを楽しむ仲間になってもらいたい」と期待する。

左から田中正登志マーケティング本部長、柴田裕社長、手島ほたる主任
左から田中正登志マーケティング本部長、柴田裕社長、手島ほたる主任

共創が育む共感

あえて間口を広げたことで、ブラック派やラテ派はもちろん、豆をひいてハンドドリップする人から手軽にインスタントコーヒーで楽しむ人まで、さまざまな距離感でコーヒーと関わる人が集う、「Coffee Fan Club」。コミュニティでの交流を同社では積極的に商品開発にも生かしている。

運営開始1年目には、コミュニティで募ったコーヒー愛にあふれるエピソードをドリップ オンシリーズのフィルター台紙部分に掲載。商品を購入した人が抽出のひとときに、コミュニティユーザーとの触れ合いを体感できるようにした。運営開始2年目の昨年からは参加者の一部にアンケートし、結果を商品コンセプトに採用するという企画にも挑戦、今年第2弾を発売した。

コーヒーのプロではない一般消費者に商品コンセプトを委ねるという難しい企画だが、アンケート対象者にはあえて、幅広い年齢層から、さまざまなスタイルでコーヒーを楽しむ人を抽出しているという。アンケート項目や聞き方には「酸味や苦味の好みは段階評価にしたり、飲用シーンやイメージは抽象的ではなく分かりやすい表現の項目を用意したり」(田中本部長)と、工夫を凝らし、深層心理を聞き出せるようにしているという。「自由記述欄に書き込むユーザーも想像以上に多い」(手島主任)という。

第2弾として販売中の、春夏限定商品「期間限定~深いコクと芳醇なブレンド~」は、「ホットでもアイスでも楽しみたい」という熱い要望に全力で応えた商品だ。ブラジルやインドネシア産の豆をやや深煎りにし、ホットでは濃厚なコクと香りを、アイスではキレのある口当たりとさわやかな酸味を楽しめるようにした。ファンとともに作り上げた点が評価され、大手スーパー等への導入も順調に進んでいるという。

「新しい発想の商品になった」と、柴田社長も喜ぶ。田中本部長は「お客さまの望みにわたしたちが経験と技術で応える。これを繰り返すことで、共感が生まれ、さらなる共創につながる」と、手ごたえを感じている。

「Coffee Fan Club」と共創した期間限定商品と、発売45周年を迎えたトアルコ トラジャシリーズ
「Coffee Fan Club」と共創した期間限定商品と、発売45周年を迎えたトアルコ トラジャシリーズ

運営開始から3年目を迎えたコミュニティでは、参加者同士が投稿を通じてコーヒーの魅力を再発見している様子が窺える。「もっとキーコーヒーを知りたい」といった声も増えているといい、柴田社長は「コーヒー好きの皆さんと一緒に楽しみながら、次の100年も愛される、新しいコーヒーの世界を作っていきたい」と話している。


提供:クオン株式会社

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