井崎脩五郎のおもしろ競馬学

父の再来、ディープ産駒の歴史的快挙

おお、重心が沈んだ!

いやあ素晴らしいと、中継画面に見入ってしまった。

6月3日(土、現地時間)、ロンドン郊外のエプソム競馬場で行われた第244回英国ダービー。

馬群の中団を進んでいたオーギュストロダンが、直線なかばで追い込みにかかると、ググッと上半身を沈み込ませて、先行勢に襲いかかったのだ。その沈み込みようは、まるで、獲物に襲いかかろうとするときのピューマのよう。

「父親のディープインパクトも、追い込みにかかるとき、ああやって重心を沈ませたよなあ」

「そう、そう。まったく同じなんで感激したよ」

ディープインパクトの現役時代を知るものは、みなそう言い合って、喜びに浸っている。

2004年12月19日(日)、のちに無敗で3冠を達成するディープインパクトは、この日、阪神芝良2000メートルの新馬戦でデビューした。1000メートル通過1分06秒0という超スローを、9頭立ての4番手で悠々と追いかけ、最終コーナーを回って、鞍上・武豊騎手から(さあ、行こうと)ゴーサインが出ると、ディープインパクトは上体を一気に沈み込ませ、あっという間に先行勢を外からとらえて、4馬身も突き抜けてしまった。ラスト1ハロンが驚愕(きょうがく)の24完歩(従来、超一流でも26完歩)。誰の目にも歴史的名馬の出現は明らかだった。

やがてディープインパクトはGⅠ7勝を達成。種牡馬となっても首位を独走し、この血を欲しいと願ったアイルランドの名門牧場クールモアが、名牝を日本へ送り込んでディープインパクトと交配、それで得たのがオーギュストロダンなのである。

ディープインパクトは19年の種付け期間中に急死し、翌20年に生まれた最終世代は内外あわせてたった12頭しかいない。その12頭の中から英国ダービー馬が出現したのだから、あらためて、さすがディープインパクトというしかない。おめでとう。

(競馬コラムニスト)

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