妊娠中にレバー食べても大丈夫? ビタミンAは過剰も不足も注意して

鉄分やビタミンAを多く含む鶏や豚のレバー。貧血防止に食べるよう勧められることも多い食材だが、内閣府食品安全委員会のサイトでは妊娠中には食べることを控えるよう求めている。一方で、20~30代ではビタミンAの摂取量が推奨量を満たしていない女性も多いとみられ、気にせず食べてほしいとの声も。食べていいのか悪いのか、悩ましい問題となっている。

「妊娠期間中には貧血の対策として鉄分が多く含まれるレバーを食べたいと思われるかもしれません。しかし、鶏や豚のレバーにはビタミンAが非常に多く含まれています。鶏や豚のレバーを食べるのはなるべく控えましょう」

内閣府食品安全委員会はウェブサイトに「お母さんになるあなたと周りの人たちへ」と題したページを設け、こう呼びかける。

ビタミンAは、視覚・聴覚・生殖などの機能維持、成長促進、皮膚や粘膜の保持、タンパク質の合成などに関するビタミンで、健康を維持するために不可欠な栄養素。近年は妊娠期間中の過剰摂取が問題となっており、とくに妊娠初期(3カ月まで)にビタミンAを非常に多くとると、胎児の発育への影響(催奇形性)が懸念されるという。

焼き鳥1本で上限超え

ビタミンAを多く含む鶏のレバーを使った焼き鳥。鉄分も多く含むため、妊娠中もバランスよく食べるとよい
ビタミンAを多く含む鶏のレバーを使った焼き鳥。鉄分も多く含むため、妊娠中もバランスよく食べるとよい

レバー100グラム当たりのビタミンA含有量は、豚では1万3000マイクログラムRAE(レチノール活性当量)、鶏だと1万4000マイクログラムRAE。厚生労働省は、妊娠期を含めた成人女性のビタミンAの耐容上限量を1日2700マイクログラムRAEとしており、例えば焼き鳥のレバー(約30グラム)を1本食べると、ビタミンAを4200マイクログラムRAE、3分の2本でも2800マイクログラムマイクログラムRAEほど摂取することとなり、これだけで1日当たりの耐容上限量を超えてしまう。

こうしたことから食安委はサイトで妊婦らに取り過ぎへの注意を促すが、一方で、「妊娠中は食べてはいけない」とまで思い込んでしまう人も少なくないという。

食安委は「一度でも食べ過ぎたら危険というわけではありません」と注釈を添えており、全く食べないようにしたり、過去に食べ過ぎたことを心配したりする必要はない。

横浜市立大付属病院産婦人科の倉澤健太郎教授(産婦人科学)は「過剰摂取というのは継続的に大量に食べる場合を指す。週に1回程度焼き鳥やレバニラ炒めを食べるのは問題ない。過度に心配することで不安やストレスを抱えることも妊婦さんの体によくないのでは」と指摘する。

20~30代は不足傾向

むしろ近年、ビタミンAの摂取量は不足傾向だ。

目安となる1日当たりの推奨量は、女性の場合、18~29歳で650マイクログラムRAE、30~69歳で700マイクログラムRAE。ところが国民健康・栄養調査(令和元年)によると、女性の摂取量の平均値は、20~29歳で447マイクログラムRAE、30~39歳が409マイクログラムRAEで、推奨量の6~7割にとどまった。

摂取量が推奨量まで届かない状況は10年ほど続いている。ビタミンAは胎児の発達に必須で、適度に摂取しなければ健康に悪影響が出る可能性もある。

女子栄養大の上西一弘教授(栄養生理学、食事摂取基準論)は「そもそも最近の若い女性はビタミンAだけでなく、エネルギーやタンパク質なども減少している。これは食事の摂取量全体が減少しているためと考えられる」と、ビタミンA以外の栄養素も不足傾向にあると指摘。とりわけ、「レバーの食べ過ぎはよくないが、妊婦さんの鉄不足は大きな健康課題。その解決のために、レバーを上手に摂取することが大切」と話す。

倉澤教授も「妊娠中はあれだめこれだめとなりがち。ただ、例えばカフェインも妊娠中はよくないとされるが、リラックス効果というメリットもあり、コーヒー1日2~3杯なら問題ない。妊婦さんには、かかりつけ医とよく相談して、出産までの期間、ストレスを抱え込まずに楽しんで過ごしてほしい」と話している。(平沢裕子)

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