小林繁伝

おでんの力で見違える投球、CM依頼も殺到 虎番疾風録其の四(240)

小林繁を励ます会に出席した横綱輪島(右)と握手する小林=昭和54年3月、品川パシフィックホテル
小林繁を励ます会に出席した横綱輪島(右)と握手する小林=昭和54年3月、品川パシフィックホテル

「おでんの力」とは恐ろしいものである。昭和54年3月31日、最後のオープン戦のマウンドに立った小林は、見違えるばかりの投球を見せた。


◇3月31日 横浜球場

阪神 032 000 200=7

大洋 000 000 013=4

(勝)小林1勝2敗 〔敗〕遠藤1敗1S

(本)福嶋⑥(小林)


シュートが切れ、スライダーやナックルが低めに決まる。二回1死一、二塁ではシュートで福嶋を遊ゴロ併殺。三回の無死一塁も江尻に低めのスライダーを打たせて二ゴロ併殺に打ち取った。予定外の九回に3点を取られたものの、七回まで三塁も踏ませない好投。141球、9安打、4三振、2四死球、自責点4の完投勝ちだ。

「これで安心しました。完投のメドもつけたし、あとはこの体を休めて、本番用を磨き直すだけです」

虎番記者たちを驚かせたのはピッチングだけでない。その日の夜、東京・高輪のホテルパシフィック東京で友人やファン約千人の有志による『小林を励ます会』が催された。その中には横綱・輪島、歌手のクールファイブ、俳優の仲谷昇や坂口良子の姿もあった。タキシードに着替えた小林は壇上で「阪神のため、力いっぱい投げます」と誓った。

これまでの阪神にはなかった光景に、先輩の担当記者たちは「これが巨人の凄さなのか」と目を見張ったという。

この年の〝小林人気〟はすさまじいものがあった。

「小林さんのスッキリとしたクリーンなところが商品イメージにピッタリ。それに小林さんは女性に人気がありますから」(製作会社)

衣類防虫剤メーカーの小林製薬やトマトジュースのカゴメ、紳士服のエフワン、運動具メーカーのミズノのアドバイザーなど30件以上のCM依頼が殺到した。

小林製薬のCM撮りでこんなことがあった。甲子園球場のマウンドから小林が投げたボールを捕手目線のスローモーションでとらえるシーン。

約30センチ四方の強化ガラス板を取り付けたホームベース上のカメラに向かって投げるのだが、40球を投げてガラス板を外したのはわずか4球。これには撮影スタッフたちも「さすが…」と息をのんだ。そのとき小林は―

「ボクのコントロールもまんざらじゃないですね」とニヒルにほほ笑んだ。 (敬称略)

■小林繁伝241

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