行列のできるパン屋 ベーカーアオヤギ・青柳吉紀さん 東京・目黒

ベーカー・アオヤギの店内。青柳吉紀さんこだわりのパンが所狭しと並ぶ
ベーカー・アオヤギの店内。青柳吉紀さんこだわりのパンが所狭しと並ぶ

行列のできるパン屋が東京都目黒区駒場にある。数々のパン屋や有名ホテルでシェフを務めた青柳吉紀さん(49)が先月、独立開業した「ベーカー・アオヤギ」だ。これまで、バターや卵など動物性食材を使わない「ビーガンパン」といった意欲的なパンを世に送り出してきた青柳さん。「毎日同じことはしない。伝統を進化させるような、新しい仕事づくりをやり続けていきたい」と意気込む。

店舗は、小田急東北沢駅から6分ほど歩いた場所にある。平日も開店前から列ができるほどの人気店で、店内には、さまざまなパンが所狭しと並ぶ。

ビーガンパンは全部で3種。食パンタイプのほか、ワインに漬け込んだドライフルーツとナッツを練り込んだパンとチョコを混ぜたパンがある。「ビーガンやアレルギーの人でも、おいしいと思ってもらえるものに携わることができれば」と語る。

 ベーカー・アオヤギのオーナーシェフ、青柳吉紀さん
ベーカー・アオヤギのオーナーシェフ、青柳吉紀さん

原点は、小学生の頃に食べたパンだ。「親が買ってきた焼き立ての食パンがすごくおいしくて、その感動を忘れられなかった」。高校卒業後の進路に迷っていたが、こう思い返し、大手パンチェーン店に就職する。4年間勤め、ひととおりの製造工程を習得したのち、都内のホテルに転職。

だが、ホテルベーカリーのレベルは高く「一人前だと思っていたが、そこからが始まりだった」と振り返る。

生地の仕込みやパンの成形などあらゆる作業をダメ出しされ、周囲に相談することもできず、人生で一番辛い時期だった。1年半ほど働き「経験を一個一個かみしめ、信念を貫くことを学んだ」という。

その後、ホテルやパン店を渡り歩いて経験を積んだのち、本場フランスのパンを自分の目で確かめようと、31歳で約2カ月間渡仏する。日本とフランスのパンの違いに衝撃を受け、さまざまな店を巡った。「パンは作り手や材料のバックボーンが全て出る。自分は表面的なものでしかとらえていなかった」と感じた。

欧米では、パンが主食として、食事に合うよう作られる。一方、日本のパンは総菜パンや菓子パンが主流だ。「欧米と同じものにしても、日本の風土に根付かず、『おいしい』とはならない。いわゆる『ジャ〝パン〟』が重要だ」という。

帰国後、独立に向け知見を高めようと店を転々とし、42歳で高級ホテル「ザ・リッツ・カールトン大阪」のシェフに就任する。アジア地域のパン部門の表彰を総なめにする活躍もしたが、2年で退職。原宿の人気店のシェフやビーガンパン専門店の監修など、新たな挑戦を続けた。

「自分が積んできた経験を信じてやってきた。多くの失敗もしたが、そこから学んだことが一番の財産」

今年、目標の独立を果たした。店名に名前を冠したのは、自分の道を貫く決意の表れだ。パン職人人生を「どんなに大変なことに変えてでも、『おいしい』といわれることがすごくうれしかった。だから続けられた」と振り返る。自身のパンについて「お客さんにおすすめを聞かれるが、自分がおいしいと思えるものしか作っていない。全部おすすめです」と笑った。(深津響)

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