「古事記、日本書紀を読んで出直してこい」。20年近く前、近畿日本鉄道(現近鉄グループホールディングス=GHD)の山口昌紀社長(当時)の自宅に夜回り取材に行くと、しばしばこう追い返された。神職の資格「権正階(ごんせいかい)」を取得した異色の経営者は、就任会見で座右の銘を問われ、真心を持つことを意味する「忠恕(ちゅうじょ)」と答えた。
▶その近鉄GHDが揺れている。傘下の近畿日本ツーリストの過大請求問題で、大阪府警が詐欺の疑いで大阪市などの同社支店を家宅捜索した。自治体から受託した新型コロナウイルスのワクチン接種事業を巡り、全国63自治体などから受託した事業で最大約14億7千万円を過大請求していた可能性がある。
▶後に記紀を読むと日本の成り立ちに思いを致し、古事記が「国のまほろば」と書く大和を沿線にする鉄道会社の矜持(きょうじ)を知ってほしいとの意味だと理解した。近鉄GHDの後輩にこそ読み直してほしい。忠恕を取り戻して出直すためにも。