神戸市北区で平成22年10月、高校2年の堤将太さん=当時(16)=が殺害された事件は7日、発生から12年8カ月を経て神戸地裁で初公判を迎えた。「真相を知りたい」と願い続けてきた父、敏(さとし)さん(64)の前に姿を見せた男(30)=殺人罪で起訴=は殺意を否認。事件当時未成年だったため少年法が適用されるが、専門家は法の趣旨に反するとして疑問視し、敏さんは憤りを募らせている。
「殺すつもりはありませんでした」
午前10時10分すぎ。短髪で、スーツにマスクを着用して入廷した被告は罪状認否で、検察側が読み上げた起訴内容に「日時、場所、同年代の男性を刺したことは間違いありません」とした後、ゆっくりとした口調でこう答えた。また「被害者の名前、年齢、どこで亡くなったのかは分かりません」とも述べた。
事件があったのは22年10月4日。当時、被告は17歳で、青森県内の高校を中退し、現場近くの祖母宅に住んでいた。事件後、転居を繰り返し、令和3年8月に逮捕された際は愛知県豊山町に居住。28歳になり、パート勤務をして自立していたとみられる。
未成年の事件は通常、家裁で審判が開かれる。しかし、被告は審判前に成人していたため、少年法の規定で家裁を経ずに神戸地検が起訴。起訴前に5カ月間の鑑定留置が行われ、起訴時には29歳になっていた。
ただ司法手続き上、未成年と異なるのは家裁を経ないという点だけ。少年法61条は、身元を特定する「推知報道」を禁じており、警察や検察は被告の実名を発表しておらず、報道機関も匿名で報じている。この日の初公判でも人定事項の確認は、裁判長が被告に名前などが書かれた書面を読ませる形で行われ、傍聴人らには明かされなかった。