「着床前診断ミスで流産」 不妊治療の夫婦が大阪のクリニック提訴 体外受精トラブル増

不妊治療の体外受精で流産したのは、染色体に異常があって流産しやすい受精卵を誤って移植されたことが原因だとして、横浜市内に住む40代の夫婦が7日、大阪市内の不妊治療専門クリニックや医師に計約1千万円の損害賠償を求める訴えを大阪地裁に起こした。

訴状によると、夫婦は平成31年2月、クリニックで不妊治療を開始。受精卵に染色体の異常がないか調べる着床前診断を経て、この年の10月に凍結受精卵を移植されたが、翌月に流産したという。

着床前診断では、別の会社が移植の候補となる複数の受精卵を検査。その結果を医師が夫婦に説明した上で、移植する受精卵を決めたが、検査で染色体の異常が見つかり、移植を避けるべき受精卵が医師により推奨されていたという。

検査会社の元データをクリニックの資料に転記した際に異常の記載が抜け落ちており、クリニックが外部の2人の専門家に見解を求めたところ「ほかの受精卵を優先するべきだった」との回答で一致したという。

クリニック側はミスを認めて夫婦に和解を提案したが、条件が折り合わず提訴。原告側は「正しい説明を受けていれば、この受精卵での移植を希望することはあり得なかった」と主張している。

その後に別の医療機関で受けた移植では子供が生まれており、原告の妻は提訴にあたって「避けられた流産をさせられ、心身ともに追い詰められた」とのコメントを出した。

クリニックは「訴状を確認していないのでコメントできない」としている。

晩婚化の影響などで不妊治療を選択するカップルが増えるのに伴い、自然妊娠では想定されなかった医療問題が各地で起きている。

日本産科婦人科学会の調べでは、令和2年の体外受精などの件数は約45万件で、生まれた子供は約6万人。出生児全体の14人に1人を占める。昭和58年以降の累計では77万人の子供が誕生している。

一方で、医療事故も発生。平成21年には四国の県立病院で、別の患者の受精卵を移植してしまい、女性が中絶。損害賠償請求訴訟で、県が820万円を支払うことで和解した。

夫婦間の「同意」が問題となって訴訟に発展することも。受精卵を無断で元妻に移植したとして、男性が令和3年、手術をしたクリニックに慰謝料や養育費の支払いを求めて提訴。大阪高裁は昨年12月、男性の意向確認を怠ったクリニックの過失を認める一方、養育費の支払いは退ける判決を出した。

同学会は治療施設として登録する要件として「受精卵は生命倫理の基本に基づき慎重に取り扱う」と規定。職員研修を定期的に実施し、体外で受精卵の操作をする際は必ず医師や看護師ら2人以上によるダブルチェックを求めている。


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