温泉やスーパー銭湯-。広い湯船やサウナなどが楽しめる入浴施設は子連れ客にも人気だが、子供と異性の保護者が混浴する場合、他の利用客の視線が気になるという悩みがつきものだ。各地で混浴可能な年齢の上限を引き下げる条例改正が相次ぐ中、幼い子供とその親が、より安心して入浴施設を利用できるようにと、不安を解消する新たなアイテムが誕生した。(篠原那美)
子供の恥ずかしさ
子供用入浴着「PASSPORT」を開発したのは繊維専門商社「帝人フロンティア」だ。女性の健康課題解決をテーマに昨年発足したフェムテックのプロジェクトチームが製品化した。
発案者は子育て中の女性社員。知人女性が発したある悩みが開発のヒントになったという。
「知人が幼い息子2人を女湯に連れて行ったときのこと。風呂場で同じ保育園に通う女児と鉢合わせしてしまい、お兄ちゃんが女湯に行くのを嫌がるようになったそうです。知人の夫は単身赴任中。幼児一人で男湯に行かせるわけにいかず、楽しみだった入浴施設に行けなくなったと打ち明けられました」(発案者の女性社員)
性犯罪の防止も
混浴には性被害のリスクも潜む。過去には、父親と一緒に男湯にいる女児を狙った盗撮事件も起きている。
子供は第二次性徴を迎えると体形が変化する。そうした成長段階を踏まえ、あらかじめ性被害のリスクを下げようと、混浴の制限年齢の上限を引き下げる動きが広がる。厚生労働省は令和2年12月、都道府県など地方自治体に通知を出し、混浴制限年齢の目安を「おおむね7歳以上」と提示。従来の「10歳以上」から上限を引き下げた。以降、各地で年齢上限を引き下げる条例改正が相次いでいるが、まだ自治体により対応はまちまちだ。
「事情があり混浴せざるを得ない親子の困りごとを解決するアイテムには、社会的なニーズがある。子供たちを性犯罪から守りたいという思いもあり、開発に着手しました」。帝人フロンティアで、発案者とともに子供用入浴着プロジェクトを担当した丸山詠子さんはこう振り返る。
同社の子供用入浴着は身長80~100センチ程度の幼児が着用できるサイズ。布には繊維会社の強みを生かし強力な撥水(はっすい)加工を施した。体や髪を洗ってもお湯で流せば繊維に泡が残らないため、着たまま湯船につかっても問題はない。
「肌にまとわりつかない快適性と、体が透けてみえない安全性の両方を追求しました」と丸山さんは力説する。
施設の理解がカギ
課題はどう普及させていくかだ。入浴施設やその利用者の理解がなければ親子が使いたくても使えない。
「賛同してくれる施設にレンタル品として置いてもらうことを考えています」と丸山さんは話す。
この春、5つの入浴施設で利用者の声を集める実証実験を行った。施設への仲介や告知、反響の集計に協力した、温泉サイト「ニフティ温泉」を運営するニフティライフスタイルによると、女湯を利用する小学校高学年の女児も入浴着に興味を示し、「もっと大きいサイズも作って」との要望が寄せられたという。
入浴着を巡っては、乳がんなどの手術の傷痕に配慮した「大人用」が、女性の体や健康に配慮するフェムケアの一環として広がりつつある。
丸山さんは「私たちが目指すのは、誰もが安心してお風呂を楽しめる環境。フェムテックの展示会などに積極的に参加し、子供用入浴着の存在を知ってもらいたい」と話している。