「シャングリラ」と言えば、安全保障関係者の間では伝説の理想郷ではなく、シンガポールのシャングリラホテルで開かれるアジア安保会議を指す。米中の国防担当閣僚が顔をそろえるのが恒例となっており、記者も世界中から集まる。
2~4日に行われた今年のシャングリラで、注目を集めたのは、中国の李尚福(り・しょうふく)国務委員兼国防相だろう。大規模な国際会議での講演は3月の就任後初で、会場は満員。講演で李氏は対話の重要性を強調し、安保会議を通じた「深い意見交換を楽しみにしている」とも付け加えた。知己のオーストラリア人記者は「意外とソフトな印象だ」と感想を述べていた。
ただ、講演後の質疑応答で〝本性〟が見えた。フィリピンの出席者が、対話を重視するという中国が南シナ海の実効支配を強化している現状は「言葉と行動に大きな違いがある」として、その理由を聞いた。実にいい質問で、どう応じるか個人的に胸が高鳴ったが、李氏は明確に返答しなかった。クーデターで実権を握ったミャンマー国軍と中国軍の協力関係についての質問にも回答はなかった。
結局、中国の対話とは、自説を一方的に開陳することなのだろう。安保会議を通じ、ソフトどころか「中国は変わっていない」という印象しか受けなかった。(森浩)