暴力行為等処罰法違反(常習的脅迫)や強要、名誉毀損(きそん)などの疑いで逮捕状が出ていた元参院議員のガーシーこと東谷義和容疑者が滞在先のアラブ首長国連邦(UAE)から帰国し、警視庁が逮捕した。
容疑者は今年3月に警視庁が逮捕状を取得した後もUAEに滞在したまま「一生帰国しない」などと公言していた。日本の警察当局による積極的な働きかけで事実上の国外退去になったとみられる。
「逃げ得」や、容疑者に対する安易な英雄視を許さない警察当局の姿勢は高く評価できる。これを前例として、今後も国外逃亡犯の摘発に全力を挙げてほしい。
容疑者は「暴露系ユーチューバー」と称してインターネット動画投稿サイトで芸能人らを脅迫する一方、令和4年の参院選にNHK党(現・政治家女子48党)から比例代表で立候補し、個人名で28万票を得て初当選した。今年3月には正当な理由なく国会欠席を続けたことから参院を除名処分となり、国会議員の「不逮捕特権」を失った。外務省は警察当局の要請を受けて旅券返納命令を発出し、容疑者の旅券は失効していた。
国際刑事警察機構(ICPO)は日本の警察当局の要請で、容疑者の国際手配について情報収集を求める「青手配」から身柄拘束を求める「赤手配」に切り替えた。ICPOのライシ総裁はUAE出身だ。5月下旬には警察庁と警視庁の捜査員がUAEに赴き、現地当局に日本の立場を説明した。こうした矢継ぎ早の警察外交が今回の帰国や逮捕を実現させた。
UAEは裕福な外国人に対する寛容な移民政策をとり、かつてはパキスタンのムシャラフ元大統領やタイのタクシン元首相らが亡命生活を送ったことでも知られる。容疑者もUAEでの長期滞在に自信があったようだが、日本側の総力を挙げた迅速な捜査が逃げ場を奪った格好だ。
日本は米国と韓国の2カ国しか犯罪人引き渡し条約を締結していない。海外への逃亡犯に対してはICPOを通じた要請と2カ国間の直接交渉を尽くすのみで、今回の逮捕劇は今後の参考となる。
同じ中東のレバノンには、特別背任などの罪で起訴した日産元会長、カルロス・ゴーン被告も滞在している。捜査当局は決してあきらめることなく、こちらでも強制送還への道を探ってほしい。