第十四章 きらん屋 四 (文・永井紗耶子)
飢饉(ききん)の中、助けられなかった命があること。己は飢えることなく生き延びたこと。それを「忘れるな」と、声なき声に苛(さいな)まれるように思う夜が、定信(さだのぶ)にもあったのだ。
「それは、ご苦労をなさいましたな」
鬼卵(きらん)は労(いた)わるように言い、頭を下げる。
「その方もまた、骸(むくろ)を間近に見て焼き場に運んだとあれば、辛(つら)い思いもあろう」
飢饉(ききん)の中、助けられなかった命があること。己は飢えることなく生き延びたこと。それを「忘れるな」と、声なき声に苛(さいな)まれるように思う夜が、定信(さだのぶ)にもあったのだ。
「それは、ご苦労をなさいましたな」
鬼卵(きらん)は労(いた)わるように言い、頭を下げる。
「その方もまた、骸(むくろ)を間近に見て焼き場に運んだとあれば、辛(つら)い思いもあろう」