神奈川県横須賀市は対話型人工知能(AI)「チャットGPT」の試験導入の実証を経て、本格導入に大きくかじを切った。業務時間の短縮や、情報の要約などで力を発揮することが期待される同市の検証結果となったが、使い方によっては回答内容の適切さなどに課題があることも浮き彫りになった。全国の自治体に先駆けて試験導入に踏み切り、「開国の地」と自負する同市への注目は続きそうだ。(高木克聡)
「予想通りの結果だった」。5日の記者会見で上地克明市長は満足そうな表情を浮かべた。市では文章の要約、情報の検索、アイデア出しなどで活用し、業務時間の短縮などの効果が確認された。本格導入に向けて、職員による使い方を磨くために専門家から助言をもらう体制も整えた。
上地市長が今回、特に評価したのが要約に対する性能だった。従来の役所の報告について「公文書は、いつもほとんど分からない」と指摘した上で「要約したものだとすぐ理解できて効率が上がる。飛躍的に職員との会話も進む」と強調した。
ただ、チャットGPTの弱点も明らかになった。検索に関する回答にネット上の噓の内容が取り込まれる懸念などが指摘されてきたが、職員アンケートでは約4割がチャットGPTの回答内容について「適切なときと適切でないときが半々」とした。市は検索は用途として不向きであると位置付けているが、アンケートで利用用途として最も多かったのが「知りたい情報の検索、調査」。職員の使い方も課題となる。
独創的なアイデア出しも苦手なようで、上地市長は「横須賀市の歌を作らせてみたが全然つまらなかった。クリエーティブなものはまだまだ」。チャットGPTの使い方を解説する手引き書の作成で構成案出しなどで利用したが、「チャットGPT開国の地」などとするキャッチフレーズは職員が考え出したものだった。
4月に米スタンフォード大の研究所が発表した報告書では、自動で文章や画像を作成できる「生成AI」は1度の学習ですら一般家庭の何十年分もの大量の電力を消費するとされた。今回の市の実証では消費電力や二酸化炭素(CO2)排出量などシステムの裏側で発生する環境負荷は考慮されておらず、「利用がある程度のところに行けば検証しないといけない」(上地市長)とするにとどめた。
エネルギー効率と精度を両立させ、専門分野に特化する生成AIの開発競争は始まっている。上地市長も地域主権を目指す自治体は「独自のAIも作っていかないといけない」との認識を示し、行政分野専門の生成AI開発にも意欲的な姿勢を示した。